普段の仕事の中では一日に別のレコーディングが2本続くことも少なくないのですが、場合によっては「お昼にレコーディングが終わって次が夜」なんてこともよくあります。横浜在住の僕の場合「ちょっと家に帰って仮眠」なんていう自分にやさしいスケジューリングも叶うわけがなく、大都会東京を一日じゅう迷子の子鹿のようにひざをガクガクさせながら彷徨うことになるわけです。
都心のまっただ中にいるだけで人混みに悪酔いしてしまうヤワな三半規管を持つ僕は、喧噪を避けて上野か浅草にひとりで散歩に出ます。
僕のおきまりのコースは、上野広小路駅から歩いてすぐ、和菓子の「うさぎや」でどら焼きと最中を買って、そのまま不忍池まで少し戻るんですね。
のんびり歩いて日差しの暖かさを肌で感じたら、池のほとりのベンチに座って、買ったばかりのどら焼きをやおら取り出してね。まだ温かい焼きたてのどら焼きをほおばりながら、さんと照っていた陽が傾いて空の色が焼けるまで、ぼぉ〜っと座ってるんです。ホントにぼぉ〜っと。たぶん口も半開きかも。
2、3時間ほど座っていると曲とかも浮かんじゃうのですが、この時に浮かんだメロディはどんなに良くても全部ボツ。五線紙メモに留めることもしません。だって面倒だから。この時ばかりはメロディよりもどら焼きがエライ。音楽は池を泳ぐ水鳥の音だけで良いんですよね。でも水鳥にどら焼きはあげません。水鳥よりも僕の方がこのどら焼きの美味しさが分かるから。
気づいたら周りは学生カップルか老夫婦ばかりで、男一人でいるのは僕か他のベンチで寝ているホームレスばかりだったりして。まあ僕も似たようなもんか、と思いながらこの日6個目のどら焼きを開け始めて。食い過ぎだっつーの。