音楽を作る時に一番大切なのは、
「初期衝動を最後まで大切にする」
ということです。
初期衝動が失われた瞬間にその作品は伝えたいことが無くなる、つまり、作り続ける意味が無くなるのだ、ということを肝に銘じておかなければなりません。
それはどういうことかと言えば、
「たとえ完成間近の楽曲だとしても、作ることを中断する勇気を持つ」
ということでもあります。
これがなかなか難しいのですね。
自分名義の楽曲であればまだしも、お仕事として発注された楽曲などでは至難の業。
発注元の意向、〆切、予算などという無粋なハードルが幾重にも連なっているために、途中のものを中断してゼロから作り直そうなど言語道断であるとお叱りを受けてしまう恐れがあるのですね。
けれど、自分が骨の髄まで納得ずくのものを作りたい、作らねばならないという使命感は一番大切にしたい。
ではどうするか?
実は簡単なことだったりします。
もともとそういう葛藤を生むような状況を作り出さないようにすれば良いのですね。
具体的には、出来るかぎり早い時点で、初期衝動に任せて大まかなラフを作ってしまうということです。それこそ半日から1日で。
その段階では、細かい部分や全体のカラーや統一感などは完全に無視する。
どんなにちゃちなものでも、
「これは全然ラフなんだからね、自分よ。」
「完成図はこんなもんじゃないけど、今はこれで良いのだよ、自分よ。」
と自分に言い聞かせて、細かく手を入れたい欲を抑えながらまず全体像を作ってしまう。
後で大幅に直すかも知れないとか、これは本当に良い仕上がりになるのだろうかとか、そういうことは一切考えず、ただただ子供の落書きのようにざーーーーっと、とりあえず最後まで作り切ってしまう。
そうして短い時間で作ったラフには、必ず初期衝動の痕跡が残ります。
その痕跡こそが、その楽曲の肝なのですね。
作りきらずに一日でも置いてしまうと、この初期衝動自体が一晩寝かされて発酵されてしまい、妙な「うま味」みたいなものが出てしまいます。
それがまた熟成された美味しいアイデアに感じるものだから、昨日作りかけて途中だったラフにペタペタ継ぎ接ぎしてしまいがち。
でも、そんなことをしてしまえば、たちどころにその楽曲の肝が損なわれてしまいます。
何が言いたいのか焦点がぼやけてしまい、結局のところ「昨日のチャーハンと今日のチャーハンを混ぜたような、ピンぼけの楽曲」になってしまうのです。
万一そうなった場合にも、早い段階で進めてさえいれば、ゼロから作り直す時間的余裕があるわけですから、ゼロから作り直す勇気を持ちやすい。
ごちゃまぜチャーハンになった楽曲は即座にボツにして、1日目に作ったチャーハンのラフは、それ単体で別の機会にあらためて作り直せば良い。
初期衝動のままその日じゅうにラフを作りきってしまえば、〆切を守るのではなく、〆切に攻めていく感覚をつかむことができます。
〆切に攻めていく感覚を掴めれば、その楽曲はもう自分のものになっていると言えるでしょう。
〆切や予算や大人の事情が自分の初期衝動に勝ってしまう、そんなセミの抜け殻のような楽曲を世に出すことは「騒音公害」だという自覚を持つことが大切なのですね。