Event & Live

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【ライヴレポート】NAOTO × 中塚武 Collaboration LIVE ’16.6.3 @代官山 晴れたら空に豆まいて

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毎回“場”を意識したキメ細かい演出で楽しませてくれる中塚武のライヴ。
この夜の舞台は代官山のライヴハウス「晴れたら空に豆まいて」だ。
あまり広くはないステージなので、前回のような大メンバーによるステージではなさそうだ。
しかも今回はヴァイオリニストNAOTOとのコラボレーション・ライヴ。
ソロ・ライヴとはひと味もふた味も違ったステージになりそうな予感に胸を躍らせて会場に足を運んだ。

会場に入る前にNAOTOについて簡単に紹介しておこう。

くしくも中塚と同じ1973年生まれのヴァイオリニストで、これまでに7枚のオリジナル・アルバムをリリースしているほか、数々のレコーディング・セッションやライヴ・サポートでも活躍しているトップ・ヴァイオリニストだ。
中塚の最新アルバム『EYE』をはじめ『Swinger Song Writer』『Lyrics』にも参加しており、お互いに信頼し合う仲だそうだ。

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ますます期待が高まったところで会場に足を踏み入れよう。
左右後方に桟敷席があるのがユニークな造りで、客席をざっと見回すと、9割方は女性客のようだ。
ステージを見ると、ほぼ中央にコルグのステージ・ピアノSV-1が置かれている。
舞台下手を背にして奏者が座るようなセッティングだ。
どうやらこれが今夜の中塚の相棒のようだ。

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この日は、カレーマイスターの資格を持ち、日本スープカレー協会広報宣伝担当理事も務めるNAOTOのレシピによるスペシャル・メニューとしてキーマカレーと、中塚武監修のマシュマロ入りのチーズ・ケーキも用意されているという。さすがの“おもてなし”だ。

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さてステージに目を戻すと、定刻から5分ほど遅れてメンバーが登場する。
この日のユニフォームは白黒ボーダーのTシャツ。
いつもよりラフな出で立ちだが、この日の会場にはピッタリだ。
脇を固めるメンバーはドラムの鈴木郁、ベースの寺尾陽介、ギターの石垣健太郎、そしてサックスとフルートの石川周之介の4人。
この日はホーン・セクション抜きらしい。

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ほどなく主役ふたりが登場し、ライヴがスタートする。
オープニング・ナンバーはサンバ調のインスト曲「Samba of the Sun」。
NAOTOの楽曲で、ふたりの出会いの曲らしい。
躍動感のあるヴァイオリンのメロディがいきなり観客の心を鷲づかみしたようだ。
続いて中塚の「Countdown to the End of Time」。
ライヴではお馴染みのナンバーだが、ヴァイオリンのソロをフィーチャーするなどいつもとは違うアレンジで聴かせてくれる。

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ここで最初のMC。
「MCの打ち合わせをしていなかった」という話題から。
とはいえ、絶妙の掛け合いで楽しませてくれる。
相方がいる安心感からか、むしろいつもよりも生き生きとしている印象だ。
肩の力が抜けた楽しそうな表情をしている。

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続くナンバーは中塚の「冷たい情熱」。
この曲もライヴではお馴染みなのだが、毎回拍を数えているうちに曲が終わってしまう。
この日は(5+8)拍の13拍子かなと思って聴いていたのだが、後にMCでNAOTOが6拍子と7拍子が交互に繰り返されていると話していた。
いずれにしても13拍でひとまとまりのようだ。
しかしそれだけではない。6拍子になったり4拍子になったり……。
結局拍を数えながら聴いてしまう(笑)。
拍を数えるだけでひと苦労なこの難曲を、いとも簡単そうに、滑らかに演奏してしまうメンバーの頭の中はいったいどうなっているのだろう?
もちろん作曲した張本人の頭の中も……。
NAOTOもMCで感心していたのだが、そういうNAOTO自身心地良さそうに弾きまくっていた。

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続く「strings shower」はNAOTOの楽曲。
ベース・ランニングからスタートするテンポの速い4ビートのインスト・ナンバーだ。
途中で中塚のピアノ・ソロも披露される。
通常のソロ・ライヴでは、このようなジャズピアノ・ソロを聴くことはなかなかできないかもしれない。

ふと気がつけば、ここまでの4曲、中塚はすべてキーボードに向かってプレイしている。
バンドのキーボード・プレイヤーという役どころを存分に楽しんでいるようだ。

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ここで再びMC。
「バンドのメンバーが譜面をさらったりしている間、NAOTOはずっとしゃべっているのだが、本番になるとサラリと演奏してみせる」というエピソードが披露される。
それに対してNAOTOがひと言。
「最初に弾けなかったものは二度と弾けない」。
天才ならではの名言だが、凡人には分からない(笑)。

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続いてNAOTOの楽曲「ICE」が披露される。
ベースのフレーズが印象的な楽曲で、中塚はオルガンの音色でプレイ。
いつものソロ・ライヴではまず聴くことのできないオルガン・ソロも披露してくれた。
続けて中塚の楽曲が2曲演奏される。
スキャットをフィーチャーし、幾何学的なメロディが印象的な「JAPANESEBOY」とワウギターがフィーチャーされた「ひねもすえそらごと」だ。
中塚はここでようやくマイクを持ってキーボードの前を離れる。
ヴォーカルに専念した楽曲でも、やはりいつものライヴよりリラックスしている印象だ。

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そして次に披露されたのは、ライヴ・パフォーマーとしてのNAOTOの魅力が凝縮された「Fantasista」。
ピアノのアルペジオ的なイントロで控えめにスタートするが、途中からはアゲアゲになる。
NAOTOのヴァイオリンはまさに“ファンタジスタ”だ。
プレイで魅せたあとはタオル回しで観客席と一体となる。
途中からは中塚も右手でキーボードを弾きながら左手でタオル回しに参加。
会場の盛り上がりは最高潮に達する。

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MCを挟んでここからは最終盤に向けて「プリズム」、ドラムパッドのリズムがフィーチャーされた「On and On」と一気呵成に畳みかけていく。
どちらも中塚の楽曲だ。
ヴァイオリンや各メンバーのソロもふんだんに盛り込み、ボーカルとサックスの掛け合いなどもフィーチャーされる。

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続くNAOTOの「HIRUKAZE」は、魅せるヴァイオリンの面目躍如だ。
ヴァイオリン・ソロで煽り立て、再び手拍子で観客席と一体になる。
中塚はエレピの音色でサウンドを支えている。
こちらもキーボーディスト中塚武の面目躍如だ。

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あっという間に時は流れ、いよいよ最後の楽曲だ。
サンプラーのリズムに導かれて始まったのはNAOTOの「ASIAN DREAM」。
この楽曲ではなんと扇子が登場。
まるでバブル時代のディスコのような光景がライヴハウス内に展開された。
石川周之介はこの曲ではフルートをプレイ。
中塚はこの曲でもエレピの音色を中心にプレイし、バンドのキーボード・プレイヤーに徹することを楽しんでいるようだ。
そしてNAOTOも、演奏の素晴らしさはもちろん、パフォーマーとして、そして話術でも魅了してくれた。

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余韻を残しながらメンバーが退場すると、案の定会場の拍手は鳴り止まない。

再びメンバーが登場し、改めてメンバー紹介が行われる。
編成が小さかったぶん、各メンバーの存在感は大きい。
各メンバーには惜しみない拍手が贈られた。

アンコールの1曲目は中塚の「Your Voice」。
『EYE』のリリース・パーティでは7管の編成で豪快な演奏を披露してくれたナンバーだが、この日は全く異なるで聴かせてくれる。
まるで別の曲のようなニュアンスだ。
他の曲もそうなのだが、このへんは中塚のライヴの醍醐味。
常に新しいアレンジを披露してくれるので、いつも新鮮な感動と驚きを与えてくれる。

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ハンドマイクでヴォーカルに専念していた中塚がキーボードの前へと移動し、オルガン・ソロを弾き始めると、曲はNAOTOの「Si-So♪Dance」へと続いていく。
ヴァイオリンとオルガンのコール&レスポンスがフィーチャーされたのち、ドラム、ベース、ギター、サックス、オルガンとソロが順に披露される。
いつまでもソロ回しが続いて欲しいという思いは通じず、ついに終わりの時が訪れる。
約2時間のステージだったが、あっという間に時間が過ぎ去ってしまった。

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繰り返しになるが、この日印象的だったのは、NAOTOのインスト曲でバンドのキーボーディストとしていかにも楽しそうに演奏する中塚の姿。
我々と同様に、バンドのメンバーにとってもあっという間に過ぎ去ってしまった楽しい時間だったのではないだろうか。
さて、次はどんな趣向で驚かせてくれるのか、楽しみで仕方ない……などと言うとプレッシャーになるだろうか?
でも中塚自身は、そのサプライズを考えること自体を楽しんでいるように思える。

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text by 大山哲司
photos by 菊池陽一郎