以前からライヴなどで交流のあった中塚武とDE DE MOUSEの二人。
その二人がとあるカフェで雑談していた中で出てきたアイディアが、転換時間をなくすため、2組のバンドセットを両方ともステージにセッティングして交互に演奏していくという、前代未聞の内容だった。
それが今回レポートするライヴ、「畳の上で聴こう 互いの曲を交互に演奏する会」だ。
会場は中塚のライヴではおなじみの東京・代官山“晴れたら空に豆まいて”。
タイトルの“畳の上で”は、同会場のフロア全面を畳にできるところからきている。
実際に会場に入ると、観客は思い思いに畳に座り、リラックスした様子でドリンクやフードを堪能していた。
今回のアイディアが実現したのには、1つ伏線がある。
それは、両者のサポート・ドラマーが同じ鈴木郁だったということ。
つまり、ステージにはドラマーが一人で良いというわけだ。その分、鈴木の負担は増すわけだが…その辺りは後述しよう。
そんなステージに目をやると、グランド・ピアノが鎮座し、後方にはドラム・セット、そしてボーカル、ギター、ベース、サックスの持ち場がある。
それだけでステージ上はすし詰め状態だったが、どんなライヴが繰り広げられるのか、期待が高まる。
さて、開演時間を過ぎてしばらくすると、合図もなくおもむろにメンバーが登場。
DE DE MOUSEがグランド・ピアノに、中塚はセンターに、各メンバーもそれぞれの持ち場に着いた。
ここでサポート・メンバーを紹介しておこう。
中塚バンドは、ギター石垣健太郎、ウッド・ベース寺尾陽介、サックス石川周之介、そしてドラムが鈴木郁というおなじみの顔ぶれ。
DE DE MOUSEは、エレキベースに板谷直樹、そして鈴木郁というトリオ編成だった。
両者ともさまざまなバンド形態でライヴを行っているが、今回は最小編成といったところか。
そして、挨拶とともに今回の趣旨が話され、話題はどちらからライヴをスタートさせるかということに。
詳細は割愛させていただくが、基本的にはどんなジャンケンをして先手を決めるか、に終始していたと思う。
と、そんな和やかなムードの中、ジャンケンでDE DE MOUSEの先行が決定。ノート・パソコンでシーケンスをスタートさせたのは「555 is in your heart」だった。
DE DE MOUSEはグランド・ピアノによるバッキングに終始し、シーケンスに合わせ生ドラム、そしてベースが加わり演奏していく形。
リズムに緩急を付けながら、キャッチーなシンセ・メロを聴かせるのがDE DE MOUSEの楽曲の特徴でもあるが、この曲でもラストに向ってドラムの手数も増えていき、観客もそれに合わせ自然と体が動いていた。
「555 is in your heart」の曲終わりで石垣がギターを間髪入れず弾き始め、中塚の楽曲「冷たい情熱」がスタート。BOSSのボーカル・エフェクターでハーモニーを重ねながら、こちらは生バンドならではの熱い演奏を聴かせてくれた。
3曲目は再びDE DE MOUSEで「slow avalanche」。出だしはドラムとシーケンスからだったが、鈴木もばっちり合わせてきて、その対応力にも驚かされる。DE DE MOUSEの4つ打ちピアノが加わり、ゆったりと楽曲が披露された。
そして中塚の次の曲は「JAPANESE BOY」。歌とギターとベースがイントロのキメをバッチリ合わせ、途中には石川のアグレッシブなソロがあり、中塚のスキャットがありと、駆け抜けるように演奏。
その後、「a thousand pretty things」「Countdown to the End of Time」「sky was dark(acid mix)」「プリズム」と交互に披露され、1stセットが終了。
終了とともに、中塚とDE DE MOUSEのトークが始まったのだが、中塚は、DE DE MOUSEの演奏中に、ステージ上でメンバーに次の曲をメールして知らせていた!と告白。それに対応できるのも、おなじみのメンバーだからだろう。
そこで大活躍の鈴木郁も呼び込まれ、“今日の主役!”と祭り上げられたりと、会場内は和やかな雰囲気へと変わっていた。
本人たちも「いつの間にかこんな時間に!」と言っていたように、トークが長引いてしまったようだが、その辺りはご愛敬。
2ndセットもDE DE MOUSEからスタートした。
タイトなドラムとベースで始まった「dancing horse on my notes」は、後半DE DE MOUSEが自由にピアノを弾きまくる場面もあり、一気にライヴモードに連れて行く。
中塚の2ndセット最初の曲は「Cheese Cellar」。中塚のボイス・パーカションでリズムを作り、石垣はAKAI ProfessionalのMPX16を使い、サンプルをたたいて演奏。鈴木もドラム・パッドでティンバレスなどの音を鳴らすなど、ひと味違ったグルーヴ感を出していた。
そこから1stと同じように交互に楽曲を披露していったのだが、DE DE MOUSEは「light speed you」「journey to freedom」「remember night」を、中塚は「詐欺師のブルース」「On and On」「Your Voice」という流れ。
印象的だったのが、DE DE MOUSEバンドが板谷のうねるベースや鈴木の情熱的なドラミング、そしてDE DE MOUSEの流麗なピアノによるライヴ感のある演奏で、逆に中塚バンドは石垣のMPX16と鈴木のドラム・パッドにより、エレクトロな色合いが強くなっていたこと。そこは中塚の選曲の妙だったのか、互いの形態は違えど、全体としてのバランスやノリが、相乗効果のように波及し、まるで1つのバンドのライヴを見ているかのような感覚にも襲われた。
特に、DE DE MOUSEのラスト曲「remember night」のエンディングをピアノでしっとりと締めたあとに続く中塚のラスト曲「Your Voice」では、映画のエンディング・ロールを見ているような自然な流れができていたのだ。
観客も自然と手拍子をして、ライヴ本編は大きな盛り上がりの中終了した。
もちろん、そのまま手拍子は続き、再びメンバーが登場してアンコールとなった。
ここで演奏されたのは、中塚のアイディアで密かに練習していたというDE DE MOUSEの「baby’s star jam」。
前日にそのリハ音源を受け取ったというDE DE MOUSEは、あまりに原曲とは異なったアレンジに驚いたというが、中塚バンドのオケにピアノとエレキベースが加わり、中塚がメロディを歌うという、この日だけのスペシャル・セッションとなった。観客も畳の上でスタンディングとなって、この特別な瞬間を大いに楽しみながら大団円を迎えた。
始まる前は、どんなライヴになるのか想像もできていなかったが、前述のとおり、1つのバンドを見ているような、とても興味深い内容だった。
それはドラマーが共通していたこと、曲間のつなぎのタイミングの良さ、そして中塚の選曲など、細かい要素がそうさせていたのではないだろうか。
これは終演後に聞いたのだが、「Your Voice」は当初のセットには入れていなかったそう。つまりあの瞬間に判断していたのだ。中塚の選球眼にはいつも驚かされるばかりだ。
ふとしたアイディアから生まれた本公演は、演奏者たちの普段ではなかなか見られない瞬発力や化学反応があり、単純な対バン以上の面白さがあった。
それを実現させた2組のバンドはさすがの一言であるが、ぜひ今後も新たな可能性を探りつつ続けてほしいものだ。
Text by Yoshihiko Kawai
Photos by Yoichiro Kikuchi, Akiko Tanaka