中塚本人が熱望していたというTRI4THとのコラボレーション・ライヴが8月5日、ついに実現した。
TRI4TH(トライフォース)は、トランペットの織田祐亮、藤田淳之介(サックス)、竹内大輔(ピアノ)、関谷友貴(ベース)、伊藤隆郎(ドラム)の5人から成るインスト・バンド。
パワフルかつダンサブルなサウンドを聴かせるクラブ・ジャズ界の新星だ。
高度なテクニックに裏打ちされたフレーズを次々と繰り出し、それを分かりやすい形にまとめて伝えてくれる。
そのエネルギッシュなサウンドは、聴く者の心に、そして身体に直接語りかけ、高揚感を与えてくれるのだ。
中塚とはDJ/プロデューサーの須永辰緒氏を介して旧知の仲らしい。
サウンド的にも親和性がありそうで、TRI4THをバックに中塚が歌っても違和感はないだろう。
どんなコラボが展開されるのか、楽しみだ。
ライヴが行われたのは六本木のライヴハウスVaRiT。
今年3月にオープンしたばかりの店で、ロックからクラブ・イベントまでさまざまなライヴが行われているようだ。
会場に足を踏み入れると、まず目に付くのが天井から吊された大きなミラーボールだ。
床にも点々と青い光がともっている。
こうした光の演出がワクワク感を高めてくれる。
バーカウンターに目を移せば、“DRINK”“FOOD”に並んで“MUSIC”というメニューボードが掲げられており、そこには「SOUL、ROCK、FUNK、HIPHOP、TECHNO、R&B、POPS」というメニューが並ぶ。
どんな音楽でもOKという店の姿勢を表現しているのだろう。
フロアにSE音が響き始めたのは定刻を10分ほど過ぎたころだった。
続いてTRI4THのメンバーが登場し、超高速のピアノ連打に導かれて始まったオープニング曲は「Freeway」。
ピアノの速弾きソロをフィーチャーした4thアルバム『AWAKENING』からのナンバーだ。
MCを挟みつつ、トリッキーなリズムが印象的な「Hop」、そして裏打ちのリズムが軽快な「FULL DRIVE」へと演奏が続いていく。
トランペットとサックスのユニゾンで奏でられる大きなメロディは力強く、技巧的なピアノがそれに寄り添う。
堅実なドラムとベースがそれをしっかりと支え、全体が大きな音の塊となってフロアに伝わっていく。
メンバー紹介を挟んで4曲目はアート・ブレイキーの名曲のカバー「Moanin’」。
モントゥーノ風のピアノ・バッキングに乗せて、各自のアドリブ・ソロが展開されていく。
さらに曲は特徴的なリズムから始まる「Sand Castle」、思わず身体が動いてしまうようなダンス・ナンバー「Dance’em all」と続いていく。
ここで満を持して中塚が登場。
TRI4TH+中塚で、ライヴではお馴染みのナンバー「Countdown to the End of Time」が披露される。
中塚バンドの演奏とはひと味違うものの、普段から一緒にやっているような息の合った演奏だ。
中塚がハンドマイクで歌っていても、ピアノの音が鳴っているというのはちょっと不思議な感覚かな。
ここでバンドが転換。
TRI4THから織田、藤田がステージに残り、中塚とともに軽妙な掛け合いによるトークが展開され、両者のなれそめや関係などが語られた。
その風貌からは予想できない織田のユニークなキャラクターはフロアの笑いを誘い、会場を和ませてくれる。
ステージ上の準備が整い、ここからは中塚バンドのステージだ。
この日のメンバーはサックスの石川周之介、ドラムの鈴木郁、ベースの寺尾陽介、ギターの石垣健太郎の4人で、ホーン・セクション抜き。中塚もキーボードを弾かずに、ボーカルに専念だ。
最初のナンバーは「プリズム」。最新アルバム『EYE』からのナンバーだ。
この曲ではTRI4THからトランペットの織田祐亮とサックスの藤田淳之介が参加し、石川はフルートを演奏。それぞれのアドリブ・ソロも披露された。
曲が終わると、織田と藤田はいったん退出。
SEを使ったドラムが先導して「律動(リズム)」がスタートする。
これも『EYE』に収録されていたナンバーだ。
今日の中塚バンドは、全員『EYE』のTシャツを着用している。
続いて毎回違うアレンジで楽しませてくれる「冷たい情熱」。
今夜はギターのリフからスタートするアレンジだ。
フロアを埋め尽くした人々の動きが、もそもそとして何かおかしい。
曲に合わせて身体を動かすのだが、ところどころでその動きが固まる。
踊りたいけど踊れない? そりゃそうだ。変拍子なんだから。
中塚自身、 MCで“非ダンサブル曲”と紹介していた。
この曲専用の振り付けを考えると楽しそうだ。
メンバー紹介を挟んで、曲はギル・スコット・ヘロンのカバー曲「It’s Your World」、そして「On and On」へと進んでいく。
それに続いて、ある意味この夜のハイライト・ナンバーでもある「Yellow Butterfly」が演奏された。
この曲はTRI4THのデビュー・アルバムに収録されていたナンバー。
ということは、ボーカル・パートはない。
躍るだけ? いやいや……。
中塚はトランペットのパートをスキャットで歌っており、スキャット・ソロもフィーチャーされていた。
TRI4THへのリスペクトを表した渾身のアレンジで、恐らくこの日限りのスペシャル・プログラムとなるのだろう。
ここで再びTRI4THホーンズの織田と藤田がステージに呼び戻され、ラスト2曲を一緒に演奏する。
まずは『EYE』の冒頭を飾っていた「JAPANESE BOY」だ。
高速のベース・ランニングがフィーチャーされた新感覚のジャズ・ナンバーだ。
この日の中塚バンドはサックス1本、TRI4THはトランペットとサックスの2管の編成だった。
ここに至って初めて3管がそろったことになる。
聴き比べると、管楽器の本数でこれほどまでダイナミックにサウンドが変わるのか、と再認識させられた。
1管のときはソロ楽器としてリフやアドリブ・ソロを奏で、2管ではユニゾンでメロディでを力強く演奏したりメロディとカウンター・ラインを吹き分けたりする。
そして3管になると、ハーモニーが構成され、サウンドに厚味が加わる。
そんな違いが体感できるライヴだった。
そしてこの夜最後のナンバーは、『Lyrics』から「すばらしき世界」。
ギター・カッティングによるリフから始まり、アドリブ・ソロもふんだんに盛り込んでフロアを湧かせる。
会場全体の盛り上がりがマックスになったところで、ステージ本編は終了。
当然の如くアンコールを促す拍手は鳴り止まない。
中塚と織田が再びステージに登場。
演奏はすぐには始まらない。
ステージ上では再び機材の転換が行われている。
どうやらアンコール曲はTRI4THのメンバーが中心となって演奏されるようだ。
中塚と織田が絶妙のトークでその間をつなぐ。
テーマは“渋谷系”だ。
織田はかつて渋谷系のサウンドが大好きだったそうだ。
現在の風貌とのギャップには少し驚かされた。
アンコール曲はそんな織田が選曲したという、フリッパーズ・ギター「恋とマシンガン」。
中塚もCMでカバーしている渋谷系を代表するヒット曲だ。
この夜はなんとTRI4TH+中塚で、原曲にほぼ忠実なアレンジで演奏された。
しかも、織田はコーラスも披露。中塚との見事なハーモニーはこの夜の白眉だったかもしれない。
演奏が終了しても拍手は鳴り止まない。
中塚バンドの面々が再び呼び込まれ、総勢10人が手をつなぎカーテンコール!
2つのバンドが出演したライヴだったが、対バンという形式ではなく、随所でコラボして1つのショーとして楽しめるステージに仕上げられていた。
サウンドの相性もとても良く、可能ならば定期的に催してほしい。
往々にして最近のライヴは、録音されたバージョンをいかに忠実に再現するかというところに焦点を当てたものが多いように思う。
それに対して中塚武のライヴは、場所や季節に応じてステージごとにアレンジを変え、ときには共演相手さえも変えてその場限りの演奏を繰り広げてくれる。
それこそがライヴの醍醐味だと思うし、音楽そのものの醍醐味だとも思う。
次はどんな演奏を聴かせてくれるのだろう?
ひとつのライヴが終わった瞬間に、そんな思いを抱かせてくれるライヴはそうそうない。
今夜のライヴの余韻に浸りつつ、次のライヴを楽しみに待ちたいと思う。
text:大山哲司
photo:松永佳子,田中亜紀子