中塚武の2015年の締めくくりとなるライヴは、セットリストを、当日クジを引いて決める、オールリクエストライヴとして開催された。
会場は、吉祥寺・井の頭公園そばにある、音楽/食事/お酒を楽しめるミュージック・カフェ&ダイニングバーQUATTRO LABO。渋谷などに展開するCLUB QUATTROがプロデュースにしているということで、煉瓦の内装も共通する、中塚の音楽にもぴったりのおしゃれな空間だ。
曲目は、事前に予約したお客さんからリクエストを募っており、それらの曲をすべて演奏できるようリハーサルをしておくという、演者としてはとてもしびれる内容。しかし、そのドキドキ感も楽しんでもらおうという中塚の身を削った?演出なのだ。
今回サポートを務めたのは、中塚のライヴではおなじみの石垣健太郎(g)と石川周之介(sax、flute)の2人。アコースティック・セットで行われ、中塚はボーカルに専念した。
開場直前まで入念なリハが行われており、開演が19時と変更となったが、開場と同時に続々とお客さんが訪れ、すぐに席が埋まった。開演までの時間は、QUATTRO LABOこだわりの料理、お酒を楽しみ、会場内の雰囲気も自然と高揚していくのが伝わってきた。
開演時刻となり3人が登場。あまりに自然に現れた3人それぞれが持ち場に着き、お客さんもかたずをのんで見守る。そこで今回のライヴの趣旨とメンバーが紹介され、「今日は忘年会だから楽しんでね。僕らは余裕がないんで」という中塚の言葉に笑いが起こる。そして中塚が早速リクエストボックスから1曲目の紙を引いた。
楽曲は「Countdown to the End of Time」。中塚の『ROCK’N'ROLL CIRCUS』に収録された、最近では定番と言えるブラス・セクションのカッコ良いナンバーだ。
中塚は、慣れている楽曲からか、一瞬安堵した表情を浮かべライヴがスタートした。
軽快なリズム・セクションは石垣のアコギで、重厚なブラスは石川のアルト・サックスでカバーし、中塚が歌い出す。サビでは中塚の手元の機材でボーカルにハーモニーを加えるなど、原曲の雰囲気を残ししつつ3人で織りなすアンサンブルが心地良かった。
1曲目を終え、多少の緊張感も解けた会場。オールリクエストライヴは今回2回目で、準備は大変だが、お客さんに楽しんでもらいたいという思いが中塚から語られた。メンバーに同調を求めるも、準備の大変さからか、無反応の2人に苦笑しつつ、次の曲がボックスから引かれた。
引かれたのは、連続して中塚の楽曲「キミの笑顔」。「今日のボックス先輩は優しいね」と中塚が笑いながら言い、ミディアム・テンポのバラードを歌い上げた。
3曲目の前に、中塚の盟友とも言える石垣とのエピソードが語られ、その石垣がクジを引く。出てきたのは、シンガー・ソングライター九州男の「1/6000000000 feat. C&K」。今回初めて聴いたという中塚は、昭和歌謡のアレンジにチャレンジ。というのは、C&Kからクレイジーケンバンドを想起したからだという。
そして、小道具として用意していたティアドロップのサングラスを3人がかけ演奏を開始した。中塚は声色を少し低く太く歌い、石川も野太いサックスで演出。原曲とは異なる中塚ならではの世界観で料理した。最後はイイネ!のポーズで決め、会場内から大きな歓声が上がっていた。
続く曲は石川が引いたBONNIE PINK「A Perfect Sky」。こちらは、90年代初頭に流行した、ヒップホップ・ソウルを意識したアレンジで、シャッフルのリズムで披露。こういった発想と実際にものにしてしまう中塚のアレンジ能力にはいつも驚かされる。
そして1stセット最後となった曲は、QYPTHONEの「On the Palette」。自身もセルフカバーしたことのある曲と言うことで、アコギとフルートによるボサノヴァ調のアレンジで聴かせた。
休憩を経て2ndセットへ。
ここからはお客さんにリクエストボックスを引いてもらうということで、入場時に配られたビンゴのボールで抽選が行われた。当たった人には、1stセットで使われたティアドロップのサングラスがプレゼントされるといううれしいサプライズも。
そして2ndセット最初に引かれたのは「〇の∞(ゼロの無限)」。Eテレの『サイエンスZERO』のテーマ曲にもなっている中塚の楽曲だ。原曲はビッグバンドだが、ここでも石川のサックスが活躍。石垣のギターと相まって、キメの多い難曲も何なくこなし、大いに盛り上げた。
7曲目は椎名林檎「NIPPON」。70年代ブラジリアンをイメージしたというアレンジで、ルーパーという機材を使い、ボイスパーカッション、リズムを重ねて演奏された。
続いては「ばらの花」。くるりの楽曲だが、同曲をリミックスした故レイハラカミのアプローチで、こちらもルーパーでハーモニーやアコギ、マイクによる4つ打ちキックなどを取り込み、音響的なサウンドで魅了した。
9曲目は中塚のアルバム『Laughin’』収録の「Friend」。“友達とは永遠ではない”というテーマで歌ったバラードを、中塚のむき出しのボーカルで歌い上げ、観客もジッと聴き入っていた。
ラストの曲と言うことで引かれたのは、カーペンターズの「Sing」。耳なじみの楽曲をスウィング調のアレンジで聴かせ、手拍子の中温かい雰囲気のもと本編の幕を閉じた。
もちろん沸き起こるアンコールに、3人がサンタの帽子を被って再び登場。最後までリクエストボックスから曲を選ぶと言うことで、中塚の「You are the One」とインコグニートの「Don’t You Worry ’bout a Thing」の2曲がピックアップされた。
ここで3人が何やら作戦会議を。ライブ中もちょくちょく見られた光景だが、ここでは少し長めに、即興で構成を考えていたそうだ。
ルーパーを使い、マイクで4つ打ちのキックを入れるなどリズムを構築して「You are the One」がスタート。
曲の後半、石川のサックス・ソロに入ると、中塚が石垣に耳打ちをする場面が。そしてソロが終わるとアコギが転調し、「Don’t You Worry ’bout a Thing」にそのまま突入した。
最後とばかりに自由にフェイクしてファルセットを使いエモーショナルに歌う中塚に、会場内の手拍子も自然と大きくなり、そのままの盛り上がりでライヴは終了した。
興奮冷めやらぬ会場では、観客が帰りがてら思い思いに中塚ら3人に声をかけていた。小規模な会場だからこそ、こういったアットホームな光景が似合う。
一仕事終えた感満載の中塚に声をかけると、「準備が大変だったけど、ただのカフェ・ライブにはしたくなかった」と。確かに、アコースティック編成の3人とは思えないアンサンブルを聴かせており、観客が楽しみ、魅了され、感動する空間を作り上げていた。それを飄々とこなしているように見せる中塚のアレンジ/プロデュース能力が結実した、一夜限りの貴重なライブだった。
ところで、今回演奏されずお蔵入りになってしまた曲が、まだ数曲あるらしい。これは次回に持ち越されるのか? 2016年も中塚の動向に注目していこう。
Text by Yoshihiko Kawai
Photos by Yoichiro Kikuchi, Akiko Tanaka
【Set List】
1「Countdown to the End of Time」
2「キミの笑顔」
3「1/6000000000(六十億分の一)」九州男
4「A Perfect Sky」BONNIE PINK
5「On the Palette」
6「〇の∞」
7「NIPPON」椎名林檎
8「ばらの花」yanokami または くるり
9「Friend」
10「Sing」The Carpenters
EN「You are the One」
「Don’t You Worry ’bout a Thing」Incognito