中塚武の2015年の締めくくりとなるライヴは、セットリストを、当日クジを引いて決める、オールリクエストライヴとして開催された。
会場は、吉祥寺・井の頭公園そばにある、音楽/食事/お酒を楽しめるミュージック・カフェ&ダイニングバーQUATTRO LABO。渋谷などに展開するCLUB QUATTROがプロデュースにしているということで、煉瓦の内装も共通する、中塚の音楽にもぴったりのおしゃれな空間だ。
曲目は、事前に予約したお客さんからリクエストを募っており、それらの曲をすべて演奏できるようリハーサルをしておくという、演者としてはとてもしびれる内容。しかし、そのドキドキ感も楽しんでもらおうという中塚の身を削った?演出なのだ。
今回サポートを務めたのは、中塚のライヴではおなじみの石垣健太郎(g)と石川周之介(sax、flute)の2人。アコースティック・セットで行われ、中塚はボーカルに専念した。
開場直前まで入念なリハが行われており、開演が19時と変更となったが、開場と同時に続々とお客さんが訪れ、すぐに席が埋まった。開演までの時間は、QUATTRO LABOこだわりの料理、お酒を楽しみ、会場内の雰囲気も自然と高揚していくのが伝わってきた。
開演時刻となり3人が登場。あまりに自然に現れた3人それぞれが持ち場に着き、お客さんもかたずをのんで見守る。そこで今回のライヴの趣旨とメンバーが紹介され、「今日は忘年会だから楽しんでね。僕らは余裕がないんで」という中塚の言葉に笑いが起こる。そして中塚が早速リクエストボックスから1曲目の紙を引いた。
楽曲は「Countdown to the End of Time」。中塚の『ROCK’N'ROLL CIRCUS』に収録された、最近では定番と言えるブラス・セクションのカッコ良いナンバーだ。
中塚は、慣れている楽曲からか、一瞬安堵した表情を浮かべライヴがスタートした。
軽快なリズム・セクションは石垣のアコギで、重厚なブラスは石川のアルト・サックスでカバーし、中塚が歌い出す。サビでは中塚の手元の機材でボーカルにハーモニーを加えるなど、原曲の雰囲気を残ししつつ3人で織りなすアンサンブルが心地良かった。
1曲目を終え、多少の緊張感も解けた会場。オールリクエストライヴは今回2回目で、準備は大変だが、お客さんに楽しんでもらいたいという思いが中塚から語られた。メンバーに同調を求めるも、準備の大変さからか、無反応の2人に苦笑しつつ、次の曲がボックスから引かれた。
引かれたのは、連続して中塚の楽曲「キミの笑顔」。「今日のボックス先輩は優しいね」と中塚が笑いながら言い、ミディアム・テンポのバラードを歌い上げた。
3曲目の前に、中塚の盟友とも言える石垣とのエピソードが語られ、その石垣がクジを引く。出てきたのは、シンガー・ソングライター九州男の「1/6000000000 feat. C&K」。今回初めて聴いたという中塚は、昭和歌謡のアレンジにチャレンジ。というのは、C&Kからクレイジーケンバンドを想起したからだという。
そして、小道具として用意していたティアドロップのサングラスを3人がかけ演奏を開始した。中塚は声色を少し低く太く歌い、石川も野太いサックスで演出。原曲とは異なる中塚ならではの世界観で料理した。最後はイイネ!のポーズで決め、会場内から大きな歓声が上がっていた。
続く曲は石川が引いたBONNIE PINK「A Perfect Sky」。こちらは、90年代初頭に流行した、ヒップホップ・ソウルを意識したアレンジで、シャッフルのリズムで披露。こういった発想と実際にものにしてしまう中塚のアレンジ能力にはいつも驚かされる。
そして1stセット最後となった曲は、QYPTHONEの「On the Palette」。自身もセルフカバーしたことのある曲と言うことで、アコギとフルートによるボサノヴァ調のアレンジで聴かせた。
休憩を経て2ndセットへ。
ここからはお客さんにリクエストボックスを引いてもらうということで、入場時に配られたビンゴのボールで抽選が行われた。当たった人には、1stセットで使われたティアドロップのサングラスがプレゼントされるといううれしいサプライズも。
そして2ndセット最初に引かれたのは「〇の∞(ゼロの無限)」。Eテレの『サイエンスZERO』のテーマ曲にもなっている中塚の楽曲だ。原曲はビッグバンドだが、ここでも石川のサックスが活躍。石垣のギターと相まって、キメの多い難曲も何なくこなし、大いに盛り上げた。
7曲目は椎名林檎「NIPPON」。70年代ブラジリアンをイメージしたというアレンジで、ルーパーという機材を使い、ボイスパーカッション、リズムを重ねて演奏された。
続いては「ばらの花」。くるりの楽曲だが、同曲をリミックスした故レイハラカミのアプローチで、こちらもルーパーでハーモニーやアコギ、マイクによる4つ打ちキックなどを取り込み、音響的なサウンドで魅了した。
9曲目は中塚のアルバム『Laughin’』収録の「Friend」。“友達とは永遠ではない”というテーマで歌ったバラードを、中塚のむき出しのボーカルで歌い上げ、観客もジッと聴き入っていた。
ラストの曲と言うことで引かれたのは、カーペンターズの「Sing」。耳なじみの楽曲をスウィング調のアレンジで聴かせ、手拍子の中温かい雰囲気のもと本編の幕を閉じた。
もちろん沸き起こるアンコールに、3人がサンタの帽子を被って再び登場。最後までリクエストボックスから曲を選ぶと言うことで、中塚の「You are the One」とインコグニートの「Don’t You Worry ’bout a Thing」の2曲がピックアップされた。
ここで3人が何やら作戦会議を。ライブ中もちょくちょく見られた光景だが、ここでは少し長めに、即興で構成を考えていたそうだ。
ルーパーを使い、マイクで4つ打ちのキックを入れるなどリズムを構築して「You are the One」がスタート。
曲の後半、石川のサックス・ソロに入ると、中塚が石垣に耳打ちをする場面が。そしてソロが終わるとアコギが転調し、「Don’t You Worry ’bout a Thing」にそのまま突入した。
最後とばかりに自由にフェイクしてファルセットを使いエモーショナルに歌う中塚に、会場内の手拍子も自然と大きくなり、そのままの盛り上がりでライヴは終了した。
興奮冷めやらぬ会場では、観客が帰りがてら思い思いに中塚ら3人に声をかけていた。小規模な会場だからこそ、こういったアットホームな光景が似合う。
一仕事終えた感満載の中塚に声をかけると、「準備が大変だったけど、ただのカフェ・ライブにはしたくなかった」と。確かに、アコースティック編成の3人とは思えないアンサンブルを聴かせており、観客が楽しみ、魅了され、感動する空間を作り上げていた。それを飄々とこなしているように見せる中塚のアレンジ/プロデュース能力が結実した、一夜限りの貴重なライブだった。
ところで、今回演奏されずお蔵入りになってしまた曲が、まだ数曲あるらしい。これは次回に持ち越されるのか? 2016年も中塚の動向に注目していこう。
Text by Yoshihiko Kawai
Photos by Yoichiro Kikuchi, Akiko Tanaka
【Set List】
1「Countdown to the End of Time」
2「キミの笑顔」
3「1/6000000000(六十億分の一)」九州男
4「A Perfect Sky」BONNIE PINK
5「On the Palette」
6「〇の∞」
7「NIPPON」椎名林檎
8「ばらの花」yanokami または くるり
9「Friend」
10「Sing」The Carpenters
EN「You are the One」
「Don’t You Worry ’bout a Thing」Incognito
【ライヴレポート】オールリクエストライヴ ’15/12/6@吉祥寺「QUATTRO LABO」
【ライヴレポート】TAKESHI LAB ’15/11/6@代官山「山羊に、聞く?」
ファンも待ち望んでいた、中塚武の斬新かつ画期的、音の企みが実現した。
11月6日金曜の夜、会場となったのは代官山の「山羊に、聞く?」。
自身のHPで無料配信中の『音の実験室=TAKESHI LAB』が、ついにライヴ化された。
これまでのワンマンライヴでは、ホーン隊を絡めたアグレッシブなステージが主流。それだけに、この大胆な試みは、挑戦する本人はもちろん、観客にとってもワクワク、ドキドキの”実験室訪問”となる。
店内中央には、ドンと存在感を放つ大きなツリーと趣のある書棚を配したステージが。この不思議な空間も、客席とステージの近さも、今回の“室内楽”ライヴには最も相応しい。
ましてや弦楽カルテット、ウッドベース、パーカッションとの競演とあれば、中塚ワールドの新境地を開く瞬間を、至近距離で体感できる絶好のチャンス。
それだけに、スタートを待つオーディエンスの表情はいつも以上に輝いている。
いよいよ、各々楽器を携えたメンバーがステージへとあがる。
リズムセクションを担当する寺尾陽介(wood bass)、松岡”matzz”高廣(perc)、弦楽カルテットMole & Musica の4人、宮澤さやか(1st violin)、小松美穂(2nd violin)、増田直子(viola)、松浦健太郎(cello)が舞台に揃う。
そして弦楽器特有のチューニングの音が鳴り響くなか、中塚が登場。その瞬間、“すごく面白いことが始まりそう!”という期待を込めた笑顔と拍手が、客席じゅうから沸き起こる。
1曲目は「トキノキセキ」。深く静かに弦が奏でるイントロ部分が印象的だ。
中塚の甘く切ない声が、早くもその場をじんわりと包みこむ。
「Johnny Murphy」では、ウッドベースの重厚な音とともに、哀愁漂う中塚の歌声と弦楽器の緊張感ある響きが交差。夢中になって聞き入るオーディエンスは、もはやステージに釘付けだ。
ここで今日の実験的ライヴの趣旨を語るべく、中塚のMCが入る。
この日のために全曲アレンジし直したという中塚。客席との近さのせいか、終始リラックスした雰囲気のなか、笑いを盛ったトークが炸裂。
流麗なメロディが美しい「Melody Fair」では、絶妙なタイム感のパーカッションがグルーヴを生み出し、より表情豊かに盛り上げていく。
見れば聴衆は身体を揺らし、どっぷりと音に浸っている。
TAKESHI LABで無料配信されたナンバー「ふれる」では、弦楽器ならではのピチカートで始まり、中塚のピアノとメロウな歌ですっかり魅了。
ウィンドチャイムの涼やかな音が加わり、流れるような美しい音色が客席を隅々まで満たしていく。
音の虜となり恍惚としている観客を前に、メンバー紹介でひと息。
各メンバー出会いのきっかけやキャラクターなど、様々な爆笑エピソードを散りばめて話す中塚自身も楽しそう。まさに信頼し合える仲間との共演だからこそ見せられるひとコマだ。
スペシャル感満載の贅沢な1ST ステージ後半は、無料配信からの1曲で、中塚自身の思い入れも強い「あの日、あのとき」。
そして圧巻だったのは「Cheese Cellar」だ。ルーパーを駆使し重厚な”ひとりハーモニー”を紡ぐと、たちまち会場じゅうから手拍子が沸き起こり、体温も熱気も急上昇だ。
幾重にも重ねられたリズムとハーモニー、巧みにリズムを刻むパーカッション、胸の奥にまで響くベース、そのどれもが鳥肌モノで、グルーブも抜群だ。
スピード感溢れる弦の音に身をゆだね、最高の盛り上がりをみせるオーディエンス。興奮冷めやらぬなか、大音量の拍手で前半ステージが終了した。
すっかり熱気を帯びた会場内。30分のブレイクタイムでは、冷えたグラスに注がれたビールやグラスワインを片手に、誰もが濃厚なライヴの余韻に酔いしれている。
さらに、「山羊に、聞く?」シェフが特別に考案した「TAKESHI LABスペシャルプレート」も大人気。
パクチーの香りが食欲を煽るトマトチキンスープ、ボリューム満点のメキシカンタコライス、デザートはガトーショコラという豪華な盛り合わせに、みな嬉しそうに舌鼓を打っている。
お腹も満たされたところで2stステージに。
おもむろにステージに上がった中塚は、自身の素顔を見せるようなピアノソロ弾き語りで「冷たい情熱」を披露。
待ち望まれたピアノ弾き語りがついに!!これも新しい中塚ワールドの重要な一面。その瞬間を逃すまいと、夢中で聞き入る観客の眼差しは熱く真剣だ。
さらには、なんとウッドベースとのデュオで「虹を見たかい」へと続く。
重厚なベースと伸びやかな中塚の歌声。ステージに響くたった2音の音がからみ合い、心地よく冴え渡る極上の仕上がり。
再び、弦楽カルテットとパーカッションがステージに登場。
チューニング音が醸し出す独特の世界、これがピリッと会場を引き締める。
とはいえ、中塚の面白トークが絶えない今回のライヴでは、演奏の合間は爆笑の連続。
そんなハイテンションのなか、「律動」ではキレのある弦楽四重奏の音が、そして「涙に濡れた夢のかけら」ではピアノと胸にギュッとくるボーカルが、オーディエンスの心をガッツリと掴んで離さない。
鳴りやまぬ拍手のなか、間髪入れず、いよいよラストの「Make Her Mine」に突入! 客席から沸き起こる手拍子で今夜いちばんの盛り上がりを見せる。
息のあった演奏、スピード感、表現力豊かな弦楽四重奏、すべてが一体となり、これまでにない華やかなフィーナーレを飾った。
観客からの熱烈なアンコールには、「キミの笑顔」で応えるメンバー達。
美しいメロディの運び、それに寄り添うピアノと弦楽器、印象的に響くウィンドチャイム、切ない調べを歌い上げる中塚。どれもが見事に融合し、珠玉の名曲がしっとりと会場を包みこんでいく。
“音の実験室”は、美しい余韻を残して幕を閉じた。
TAKESHI LABライヴは、この先も続けていきたいと宣言する中塚。
いったいどんな実験で私たちを驚かせてくれるのか、期待は高まるばかりだ。
そして次回、12月6日に吉祥寺で開催される「オールリクエストライヴ」も必見!誰にも予測のつかない嬉しいサプライズ、楽しいハプニングは起こるのか?! さらなる高みを目指す中塚武の音楽への追及、その夜が今から待ち遠しい。
text by 青野ゆう
photos by 菊池陽一郎、田中亜紀子
【ライヴレポート】ワンマンライヴ ’15/10/16@渋谷 JZ Brat
恒例となった渋谷セルリアンタワー2F『JZ Brat SOUND OF TOKYO』でのワンマンライヴ。その4回目が10月16日の金曜日、冷たい霧雨の降るなか開催された。
毎回ライヴを楽しみにするオーディエンスはもちろん、初ライヴの期待に胸膨らませ訪れる人も多い。金曜の夜もあってか、開演前から誰もがビールで喉を潤し、おしゃべりに興じリラックスした様子。テンポのいいBGMが流れる店内は、早くも賑やかな雰囲気へと包まれていく。
何と言ってもオーディエンスのワクワク感を盛り上げてくれるのが1発目の演奏だ。
ややルーズに白シャツと黒タイを着こなす中塚を筆頭に、今回はホーンセクションの五十嵐誠(トロンボーン)、佐久間勲(トランペット)、副田整歩(サックス)も一緒にステージに立ってのスタートという、なんとも贅沢な演出に、客席からは大歓声が沸く。
もちろんお馴染みのメンバーである鈴木郁(ドラムス)、寺尾陽介(ウッドベース)、石垣健太郎(ギター)、石川周之介(サックス)も続けて登場。
すかさず1stステージ冒頭から「Countdown to the End of Time」という超強力チューンでスタート。鳴り響くダイナミックなホーンの嵐に、会場の熱気は一気に上昇。今宵も絶好調な幕開けだ。
前回のライヴから2ヶ月“弱”ゆえの、新曲づくりにまつわる苦労話を交え、中塚が挨拶。ちょっとした笑いを誘う絶妙なトークは、ギュッと観客との距離感を縮めてくれる。こうしたトークこそワンマライヴの魅力といえる。
2曲目はアルバム『GIRLS & BOYS』に収録の「Calling Your Name」。軽快に弾むドラムに、オーディエンスは早くも身体を揺らし、発せられる興奮と熱気がみなぎるなか、『LYRICS』からの「涙に濡れた夢のかけら」とオリジナルナンバーが続く。
華やかに、かつドラマティックなサックスの響きが会場中を魅了し、ライヴの恍惚感をいっそう煽る。
ひと呼吸入れつつここでMC。スタートから共にステージに立ったホーンセクションの3人の紹介も、もはや笑い無しには進行できないちょっとした名物だ。
中塚とメンバーの掛け合いトークのおかげで、彼らの素顔がちらりとのぞく。見れば満面の笑みが、方々の客席から沸き起こっている。
『LYRICS』に収められている「月を見上げてた」は、学生時代、20代特有の夢と現実の狭間にいる悶々とした思いを凝縮して生み出した、青春時代の代名詞的な1曲。
しっとりと聴かせたあとには、屈指の超絶技巧が炸裂する「〇の∞」、そしてオーディエンスの手拍子も加わり、「Make Her Mine」では全員が熱いリズムと音の洪水にどっぷりと浸り、1stステージのクライマックスを迎えた。
前半とは思えぬ盛り上がりをみせ、その熱気溢れる余韻が漂う会場。メンバーが去った後も、抜群の選曲に誰もが脱帽するDJ高橋マサルの見事な選曲がブレイクタイムのひとときを彩る。
ふと周囲を見渡すと、赤とオレンジの2層が美しいカクテルを注文する女性たちの姿が目につく。どうやらそれは、今日のキーアイテムのよう。
しばしの休憩をはさみ、2ndステージでは黒シャツに白タイと装いを一新したレギュラーメンバーの鈴木、寺尾、石垣、石川らが中塚とともに登場。
ドラムパッドとルーパーを巧みに操り、『TAKESHI LAB』で無料配信されたナンバー「律動(リズム)」からのスタート。クールに刻まれる痛快なリズムが、早くも聴衆を釘づけにしていく。
ここで改めて4人のメンバー紹介。息の合ったメンバーとの絶妙なやり取りで、次々と面白ネタを無邪気に披露する中塚。ゆるいトークとアグレッシブな演奏とが適度に拮抗するメリハリのあるスタイルもまた、中塚ワールドらしさのひとつであり、ニクいほどの魅力になっている。
ルーパーを駆使した「冷たい情熱』」、スリリングにそして華麗なサックスが冴える「Johnny Murphy」と演奏はさらに続く。
「On and On」ではドラムパッドのパンチの効いたリズムループに、オーディエンスのボルテージも加速を増すばかり。
この後、1stステージに登場したホーンセクションの3人が再登場。継ぎ目なく続く「The Sweetest Time」のウッドベースとホーンの熱くて濃い絡みには、誰もが心酔した。
そしていよいよ、お待ちかね『新曲三題噺』コーナー!
今回選ばれたのは「生きる!」「荒涼」そして、なんと、まさかの「ぱんだ」。まったくかけ離れたこの3単語から誕生した、本邦初披露となる新曲のタイトルは「からまるゆるめる」。
いったいどう味つけされたのか演奏前から興味をそそる。
同時に、そのネーミングから作られたJZ Bratバーテンダー砂田崇氏によるスペシャルカクテルも紹介。まさに休憩時に見かけたあの美しい2層カクテルだ。
マスカットリキュールに、赤ワイン、ジンジャーエール、グレープフルーツジュースが織りなす爽やかでフレッシュな味は、飲んだ直後から口いっぱいに広がる。
新曲には想像以上に切なる中塚の思いが託されていた。
競争の激しい現代社会、つい生き急いでしまう我々に、まるで一石を投じるかのようなメッセージを秘めた1曲。
観客は息をのみ、ひたすら聴き入っている。
珠玉のサウンドは、恒例のおみやCDとしても最後に配られた。今回のジャケットももちろん石垣画伯のイラストだ。
オーディエンスの心の奥深くを震わせながらも、「トキノキセキ」では軽々とポップな世界へとシフトする、このダイナミックな急展開も最高に盛り上がれる瞬間だ。
「すばらしき世界」では力みなぎるツイストで会場を圧倒。
これ以上ないほどに鳴り響く手拍子のなかで2ndステージはクライマックスを迎えた。
熱烈な拍手のなかで再び登場した中塚はさっぱりとしたTシャツ姿に。
終わりゆくステージに、中塚は名残惜しさを隠しきれないのか、オリジナルグッズのタオルやコンパクトミラーの紹介を楽しげにしてみせる。
そこにデザインされた名曲「Your Voice」をラストに選んだ中塚。テンポよくスイングのリズムで歌い上げ、まさに説明不要の絶品サウンドが隅々まで浸透、場内を魅了していく。
いい音楽ってホントにいい!
会場がひとつに繋がった輝かしい時間は、鳴りやまぬ手拍子のなかで終わりを告げた。
12月6日には、いよいよあの【オールリクエストライヴ】第2弾が、吉祥寺QUATTRO LABOにて開催決定。
オーディエンスからのリクエストを募り、なんと本番当日にクジで引きながら曲目を決めるという前代未聞のライヴ。
大反響の前回を受けて、今回もリクエスト曲をどう調理して楽しませてくれるのか。たまらなく待ち遠しい。
text by 青野ゆう
photos by 菊池陽一郎、田中亜紀子
【ライヴレポート】ワンマンライヴ ’15/8/25@渋谷 JZ Brat
例年より、秋の訪れの早さを感じさせるような冷たい風が吹き抜ける8月の最終週。
3回目となる中塚武のワンマンライヴが渋谷・セルリアンタワー2Fにある『JZ Brat SOUND OF TOKYO』で開催された。
訪れた人が思わず吸い込まれる、そんな心地のよいライティングに照らされたフロア。
聞こえてくるBGMが、これから始まるライヴへの期待感を後押ししてくれる。
ワクワクするワケはもうひとつ、入口で渡された鮮やかな緑の卵型シェイカーの存在。
理由が気になるものの、あえて深く追及しないほうが、楽しみが何倍にも膨らみそうだ。
訪れた観客たちは、この贅沢な空間に身をゆだね、美味しいお酒を味わい、楽しいおしゃべりに興じている。
スタートを心待ちにする観客の笑顔で会場が埋め尽くされた頃、抑え込んでいた感情が一気に溢れ出るかのごとく『On and On』からの1stステージがスタートした。
冒頭からドラムパッドによる人力ループに合わせたドラムソロ!そのクールな音像と跳ねまくるリズムに思わず誰もが腰を揺らす。2ヶ月ぶりの中塚ワールド幕開けの瞬間だ。
黒シャツに白タイという装いでビターに決めた最強メンバー5人。鈴木郁(ドラムス)、寺尾陽介(ベース)、石垣健太郎(ギター)、石川周之介(サックス)に続いて、中塚が軽やかにステージへあがる。
黒ずくめのメンバー全員の足元は鮮やかなオレンジのスニーカー。すでに起こり始めている痛快なステージの盛り上がりを予言しているかのよう。
1曲目からの勢いに、早くもオーディエンスは興奮気味。そして間髪入れず『Coutdown to the end of time』が。鳴り響くサックスと弾けるグルーブ感、観客を一気に圧倒していく。
猛烈に格好よすぎる演奏から一転、親しみをこめた中塚流の季節の挨拶。
気になるシェイカーに触れつつも、使うタイミングは明かさず笑顔で濁すあたりが、中塚らしくもある。
ここで束の間のクールダウン。配信限定アルバム「53512010」に収録されている『詐欺師のブルース』を披露。スぺイシーな音に包まれながら、横揺れのグルーヴが聴衆を魅了する。
演奏後はメンバー紹介。様々な小話が中塚の口から飛び出してくる。ステージに立つメンバーひとりひとりの素を感じられるのは、ファンにとっては最高に贅沢。
オーディエンスとの距離感がまたさらにぐっと縮まる、そんな人情味溢れる曲間のトークは、今やワンマンライヴの名物ともいえる。
4曲目は夏を惜しむかのような『白い砂のテーマ』。ライヴ冒頭から心拍数高めで身体も暑くなったぶん、心地いいリズムと甘美なサックスで、ほどよくリラックス。
そして1stステージ後半は、2ndアルバム「Laughin’」収録の『Melody Fair』。
優しい歌声で雰囲気たっぷりに聞かせ、そのままラストの『虹を見たかい』へ。
待ってました!とばかりにオーディエンスも即座に手拍子で応え、スウィングのリズムに広い会場は再び熱気を帯びる。繰り返す高揚感が沸点に達したまま1stステージが終わる。
ここでしばしの休憩タイム。その間、間髪入れずに抜群の選曲で会場内の雰囲気に彩りを添えてくれるDJの高橋マサル。このワンマンライヴには欠かすことのできない一人だ。
いよいよ後半の2stステージでは、観客も期待に胸を踊らせ待ちわびていたホーン隊の3人が登場。
アグレッシブに、そしてパワフルに、この舞台に厚みをもたせてくれる彼らの演奏が鮮やかな華をそえる。
前半とは打って変わり、白シャツに黒タイで清々しくメンバー全員が登場。
そして中塚はそのままピアノに向かい、2007年に手がけた中塚自身初めてのドラマ音楽『SEXY VOICE AND ROBO』メインテーマから後半戦がスタートする。
イガバンBB率いる五十嵐誠(トロンボーン)、茅野嘉亮(トランペット)、村瀬和広(サックス)の放つブラス・セクションが強烈にカッコよく突き抜けていく。
MCでは、電車遅延ニュースを耳にした中塚が会場にいるお客さんのことを心配してみたり、のど飴を口に入れたまま、うっかりステージ立っていたことを素直に告白したり、優しい笑いを誘うトークに会場の雰囲気も和んでいく。もちろん、ホーン隊3人の紹介でも爆笑の渦となったことは言うまでもない。
『冷たい情熱』に続けてクラブクラシック、ギル・スコットヘロンの『It’s Your World』を超絶アレンジで心を奪う。
恒例のオリジナルグッズアイテムの紹介コーナーでは「CUT &MASH」のロゴ入りTシャツが登場。かつて自身の楽曲をマッシュアップしたノンストップミックスの缶バッチ音楽型プレイヤーを懐かしんで制作された1枚だ。イラストロゴは言わずもがな石垣画伯。いつでも期待を裏切らない、チームワークの賜物だ。
後半戦も中盤になった頃、前回のワンマンライヴからスタートした新コーナー『新曲三題噺』で紹介されたスペシャルソング『初夏のメロディ』を再び披露。どこか切なくも柔らかに響く歌声とスローなテンポは、初めて聞く者にも心地いい。
そしていよいよ、今回の新曲披露のコーナーへ。
2回めとなる今回の『新曲三題噺』に託された3つの言葉は「蝉時雨」「深海」「超絶」…そこから生まれたのが『ひとしずく』。
美しいタイトルは、この日のために用意されたJZ Bratのスペシャルカクテルの名前にもなっている。白ワインベースにブルキュラソー、ピーチやすみれのリキュールをシェイクした、爽やかで、すっきりした優しい口当たりだ。
いったいこの曲には中塚のどんな思いが込められているのか。
3つのキーワードから完成した『ひとしずく』には、ひとの一生が重ねられていた。
たった一滴の湧水が、山から川へと流れ、いずれは大きな海へ。そしてその海に流れ出ても、生まれたときのその一滴の存在は変わらず、最初の“ひとしずく”であることに変わりはない…それは、人生も然り。
そんな思いを大切にしたいという中塚の気持ちが凝縮された珠玉の一曲。
切なく歌い上げる中塚の声が、深く深く心に染み込んでいく。
おみやCDとして観客全員にプレゼントされた『ひとしずく』。秋の気配を感じる夜にこそ、改めてひとり静かにCDを聴き返してみたい。
そこから一気に空気を塗り替えるように、炸裂するドラムから『すばらしき世界』へと続く。オーディエンスも一緒に声を出してと呼びかける中塚。
速い8ビートのテンポ、疾走感溢れるサウンドに客席からの熱い手拍子も加わる。
石川のサックスが圧巻の高音域を放ち、観客の心をわしづかみ。
クライマックスに向けて一気に華やかさを増し、熱狂の渦を駆け抜け本編は終了した。
鳴りやまぬ手拍子に迎えられアンコールに応えるメンバーたち。
中塚も「CUT &MASH」のTシャツに着替えて登場。
会場となるJZ Brat、会場の雰囲気を裏から支えてくれたDJ高橋マサル、そしてメンバーの労のねぎらった後に『Your Voice』を披露。
その余韻に浸る間もないまま、ついに夏だ!祭りだ!サンバだ!と、思わず叫びたくなるブラジリアンリズムが!!
恐るべし、あの名曲のフレーズが! さだまさし『北の国から』のサンババージョンが〆とは鳥肌モノだ。
オーディエンスも我を忘れ、夢中になってシェイカーを振っている。ブラジル色のシェイカーがこの瞬間、ステージと客席をひとつにつなげていく素晴らしさ、この曲の世代を越えた普遍性に思わず感嘆。
観客の生き生きとした表情のすべてが、このライヴの素晴らしい成功を物語り、これ以上はないという盛り上がりをみせ、幕を閉じた。
次回のワンマンライヴは街が秋色に染まり始める10月16日金曜日。場所は同じく渋谷JZ Bratだ。
毎回、最強で最高なライヴを披露してくれる中塚武の次なる挑戦は?
どんな曲が飛び出し、楽しませてくれるのか、今から待ち遠しくて仕方がない。
text by 青野ゆう
photos by 菊池陽一郎、田中亜紀子
【ライヴレポート】ワンマンライヴ ’15/6/14@渋谷 JZ Brat
渋谷駅から国道246号線を登ると左手にセルリアンタワーがそびえ立つ。
中塚武のホームグラウンドとも呼べる『JZ Brat SOUND OF TOKYO』はその2Fにある。
この会場でワンマンライヴが開催されるのは3月20日以来2回目だ。
会場に足を踏み入れると、間接照明の柔らかな光に包まれたフロアを、雰囲気のある音楽が包み込んでいる。
すでに中塚武の世界が会場内に満ちているのが感じられる。
DJに耳を傾けているといつの間にか客席は満席に。
みなそれぞれ思い思いの会話に花を咲かせながらも、これから始まるライヴに思いを馳せ、期待に胸を膨らませている。
18時をすぎ、いよいよメンバーが登場する。
全員が黒シャツ、黒ズボンに白タイと揃いの衣装を身にまとい、靴もオレンジに統一して一体感を醸し出している。
鈴木郁(ドラムス)、 寺尾陽介(ベース)、 石垣健太郎(ギター)、 石川周之介(サックス)に続いて中塚がステージに登場。
ステージ中央でマイクを握り、いよいよ1stステージのスタートだ。
最初のナンバーは「It’s Your World」。
中塚武withイガパンBBのアルバム『BIG BAND BACK BEAT』に収録されていたギル・スコット=ヘロンのカバー曲だ。
ビッグバンドで演奏されたアルバムバージョンとは異なり、コンボスタイルのアレンジだが、その迫力はビッグバンドに勝るとも劣らない。
曲後半ではサックスソロからスキャットがからみ合い、会場のボルテージも一気にマックスだ。
そしてMC。
スリリングな演奏とは打って変わり、気さくなトークで会場を和ませる。
拍手のもらい方だけで会場の笑いを誘うなど、中塚はあくまでも自然体だ。
続いて石垣のギターに導かれるように「愛のうた」が披露される。
鈴木、寺尾の強固な土台の上で石垣が淡々とリズムを刻み、石川が華を添える。
一糸乱れぬチームワークに支えられてスキャットを歌う中塚はこの上なく楽しそうだ。
その楽しさは会場の隅々にまで伝わり、客席でも笑顔の花が満開だ。
リズムに合わせて身体を揺らし、全身で音楽に浸っている。
続くナンバー「愛の光、孤独の影」から、間髪を入れずに「律動(リズム)」がスタートする。
この曲は中塚武が自身のサイトで2011年から行っているプロジェクト『TAKESHI LAB』で無料配信されたナンバー。
アルバム未収録だけに、多くのファンがステージでの演奏を期待していたようだ。
曲が終わるとメンバーが紹介されるが、付け加えられるエピソードが秀逸だ。
ひとことひとことで、各メンバーのキャラクターが頭に明確に浮かんでくる。
続いて演奏されたのは『Kiss&Ride』からのナンバー「The Sweetest Time」。そして1stステージのラストは『LYRICS』に収録されていた「虹を見たかい」。
オーディエンスの手拍子が会場を包み、盛り上がりの余韻を残したままメンバーはステージを後にする。
1stステージが終了すると再び、BGMが会場に流れ始める。
DJを担当していたのは中塚が絶大の信頼をおく高橋マサル。
ステージの後味をさらに増幅させる巧みな選曲はさすがで、どの曲も中塚がステージでカバーしても違和感がなさそうだ。
20分ほどのインターバルの後、再びメンバーがステージに登場する。
今度は白シャツに黒タイという出で立ち。中塚は帽子を被りながら、そのままグランドピアノの前へ。
2ndステージ最初のナンバーは「Countdown to the End of Time」だ。
そう言えばアルバム『Rock’n Roll Circus』でもこの曲が冒頭を飾っていたことに思い至る。
何事も始まった瞬間から終わりへのカウントダウンが始まるもの。
そういう意味ではこれほどオープニングに相応しい曲はほかにないのかもしれない。
2ndステージから加わった3人のメンバー、榎本裕介(トロンボーン)、茅野嘉亮(トランペット)、副田整歩(サックス)のソロも順にフィーチャーされ、引き締まったサウンドが2ndステージを待ちわびていた客席を魅了する。
やはり中塚サウンドにはタイトで華やかななホーンセクションが欠かせない。
曲が終わると早速ホーン・セクションのメンバーが紹介される。
ここでもまた各メンバーの微笑ましいエピソードが語られ、客席は笑いに包まれる。
そして曲はピアノのリズム・バッキングとダイナミックなホーンが印象的な「涙に濡れた夢のかけら」、 中塚お気に入りのナンバーのひとつ「スキップ・ビート」と続いていく。
「スキップ・ビート」は中塚武withイガパンBBのアルバム『BIG BAND BACK BEAT』にも収録されていたKUWATA BANDのカバー曲。
要所要所を締めるホーン・セクションのアクセントが心地よく、ビッグバンドを彷彿とさせるサウンドだ。
続くナンバーは『TAKESHI LAB』第2弾として配信された珠玉のバラード「ふれる」。
この曲もすでに配信が終了しており、ライヴで聴けるのを楽しみにしていたファンも多かったのではないだろうか。
そしていよいよお待ちかねの新曲「初夏のメロディ」。
前回のライヴで予告された新コーナー『新曲三題噺』による新曲だ。
リクエストコーナーに寄せられたキーワードから「初夏」「前髪」「手と手」の3つがテーマとしてピックアップされて作られた曲で、この日のおみやCDにも収録されている。
ピアノを離れステージ中央に戻った中塚はバーテンダーの渡辺知寛氏をステージに招き、曲に合わせてこの日のために用意されたスペシャル・カクテル『初夏のメロディ』をお披露目する。
すいかリキュールや、もものリキュール、白ワインなどから作られたカクテルはブルーと白の2層になっており、添えられた蘭の花が涼味を演出している。
仕事じゃなければぜひとも注文したかったのだが……残念!
『おみやCD』のジャケットにもレシピが掲載されているので、材料さえ手に入れば再現することが可能だ。
ちなみにおみやCDのジャケットは石垣健太郎の手によるもの。
ブルーをベースにしたデザインが爽やかで、描かれたイラストからは微笑ましいラブストーリーがイメージされる。
そしていよいよ曲の披露。
ホーンセクションとフルートによるイントロ、メジャーセブンスを基調としたサウンド、ふんわりと柔らかく歌うボーカルと、どこをとっても涼やかで軽快なナンバーだ。
曲後半ではルーパーによる「手と手と手と手と……」というコーラスがフィーチャーされ、これが実に印象的。
この日の入場者はみな帰りの電車の中でこのフレーズを反芻していたのではないだろうか。
ステージはいよいよ大詰めだ。
「Your Voice」「すばらしき世界」が立て続けに演奏され、ステージ本編は終了するが、もちろん大きな拍手は鳴り止まない。
アンコールに応え、グレーのシャツに着替えた中塚が再びステージに登場すると、拍手の音量もボリュームアップ。
「みんな知ってる曲です」の声に続いて「恋とマシンガン」のイントロが流れ始めると、会場のボルテージも最高潮に。
会場の手拍子に合わせて心地よさそうに歌う中塚も、この日一番の笑顔だったかもしれない。
この日のワンマンライヴは、バラエティに富んだ選曲やメリハリの効いた演奏、曲ごとに表情を変えるボーカルといったサウンド面と、温かみのある場の雰囲気、美味しいカクテル、そして洗練されたBGMなどが一体となって作り上げられた、まさに「中塚ワールド」だった。
名残惜しげに歌い終えた中塚の口からは、8月25日に次のワンマンライヴが決定したことが告げられた。もちろん場所はここJZ Bratだ。
そして次回『新曲と三題噺』キーワード抽選会が、7月14日恵比寿BATICAで行われることも併せて発表された。
夏の終わりにどんな新曲が披露され、どんなカクテルを味わえるのだろう?
再び訪れる『中塚ワールド』への小旅行が今から楽しみだ。
text by 大山哲司
photos by 松永佳子、田中亜紀子、高橋マサル
【ライヴレポート】TAKESHI NAKATSUKA brings “HAPPINESS”@MOTION BLUE YOKOHAMA
4月の週末、花冷えの小雨が降るなか、横浜・赤レンガ倉庫にある『Motion Blue YOKOHAMA』にて、中塚武と豪華メンバーによる華やかなライヴが開催された。
昨年、ディズニーの名作をスタイリッシュなジャズ・アレンジで鮮やかに蘇らせ話題となったアルバム『Disney piano jazz “HAPPINESS” deluxe editon』リリース当日に表参道・Apple Storeで行われた記念ライヴが大反響を呼び、いま再び、名立たるメンバーとともに華麗なステージをここ横浜で、あらためて披露することになった。
夕刻からの1stセットは子供から大人までが世代を越えて集い、2stセットでは大人のムード漂う洗練の客層で、会場は2セットともに早くから満席に。
誰もが今か今かと待ちわびているところに登場したのは、ディズニーキャラクターに扮したミッキー中塚と共演キャストの面々。
8名全員がファンキャップをかぶってステージに現れるというユーモアたっぷりな演出に、観客はもちろん大喜びだ。
中塚のライヴではおなじみの石川周之介(Sax, Flute)、石垣健太郎(Guitar, Guiro)、鈴木郁(Drums)、寺尾陽介(Bass)が。
さらに今回は、力強くライヴを盛り立ててくれるホーンセクションとして佐久間勲(Trumpet)、茅野嘉亮(Trumpet)、五十嵐誠(Trombone)という各方面で引っ張りだこの素晴らしいプレーヤーが、今日この日のために横浜に集結したのだ。
ステージ中央のグランドピアノの前に中塚が座り、いよいよ夢いっぱいのライヴが始まる。
スタートはアルバム『HAPPINESS』でも1曲目に収録されている「It’s a Small World(小さな世界)」。
小気味よく跳ねるピアノ、トランペットの高音とサックスの心地いい響き、巧みに情緒を効かせた魅惑的なアンサンブルに、オーディエンスは早くも虜状態だ。
ブレイクを連発するホーンセクションのゴージャスな響きとパワフルにドラムが炸裂していくメインテーマは、まさに鳥肌!
軽快なディキシー風アレンジの中で奏でられる華麗なピアノプレイで魅了し、一瞬にして聴衆の心をわしづかみにしていく。
中塚が大好きという作曲家アラン・メンケンの作品「Beauty and the Beast(美女と野獣)」に続いては、中南米の世界に迷い込んだアリスをイメージしブガルーに編曲したという「Alice In Wonderland(ふしぎの国のアリス)」だ。
中塚らしい独創的な世界観で楽しませてくれる一曲は、ギロとモントゥーノピアノで始まり、さらに鳴り響く4管のホーンセクションに手拍子も加わってラテンワールドを表現。たちまち会場全体はキューバンな熱気に。
その盛り上がりのなか、次に披露されたのは、圧倒的な「Main Street Electrical Parade」。
先月、タワーレコードとビレッジヴァンガードで限定発売されたピアノカバーのコンピレーションアルバム『PIANO MAN PLAYS DISNEY』にも収録されたこの曲は、冒頭からラストまで息もつかせない超絶技巧のピアノ、激しく疾走するホーンセクションやフルート、連続するブレイクに、観客の誰もが圧倒させられっぱなしだった。
ここでいったんホーンセクションはお休みし、中塚のオリジナルを3曲ほど披露。
茶目っ気たっぷりにルーパーを使ってみせ、客席からの笑いを誘う中塚。通常のライヴ同様、場をぐっと温かく和ませていく。
「冷たい情熱」をキレよく歌い上げ、「トキノキセキ」は甘く切なく聴かせ、そして「虹を見たかい」では客席からの手拍子も加わりより華やかに。ファンキーなリズムワークとメロウな旋律を自在に絡み合わせながら、シュールで濃厚な中塚ワールドをたっぷりと聴かせてくれた。
終盤をまず飾ったのは、中塚曰く「サングラスとモッズスーツで決めた7人の小人バージョン」という「Heigh-Ho(白雪姫)」だ。
ストイックでクールな音像と、凄まじいドラムソロに完全ノックアウト。楽器の音色が折り重なるように厚みを増してしいく、まさに大人の風格をまとった斬新なディズニーサウンドが会場を満たしていく。
全てのオーディエンスが身体じゅうでリズムを刻み、エネルギッシュなステージは最高潮を迎える。
高まったテンションはそのままに、再びホーンセクションがステージに上がると、昨年、世界中で一大センセーショナルを沸き起こした「Let It Go(アナと雪の女王)」を演奏。
メインテーマを奏でるピアノとテナーサックスの美しい音…と思いきや、次第に陽気なジャズサンババージョンへとスイッチ。中塚曰く「少しも寒くない」鮮やかなアレンジはさすがの一言!
振り幅の広さと、そのままでは決して終わらせない中塚の徹底したこだわりを肌で感じられるステージは、あっという間に本編ラストを迎えた。
「Winnie The Pooh(プーさんとハチミツ)」では冒頭から会場中に手拍子が鳴り響き、ステージはハッピームード一色に包まれる。
ポップなメロディとアップテンポなリズムにのせられ、愛嬌たっぷりのプーさんが今にも登場してきそうな気配。
フィナーレには相応しいカラフルで陽気なアレンジが、ステージを盛り上げていく。
チャーミングな音色で抑揚をつけながら、ラストまで華やかに駆け抜けた愛すべきディズニーサウンド。中塚と素晴らしいメンバーの情熱が十二分にその魅力を堪能させてくれる。
興奮と熱気が冷めやらぬまま、アンコールへ突入。その余韻をもっと味わいたいと願う観客の期待に応えるべく、締めくくりに選んだのは「When You Wish Upon A Star(ピノキオ)」と自身の楽曲「Countdown to the End of Time」をマッシュアップさせたスペシャルバージョン。
切なく静かに歌い上げるイントロから、高らかに旋律を奏でるホーンセクション。疾走感溢れるソロ回しは圧巻の極み。極上のグルーヴとパフォーマンスで会場を熱気で包みこんだ。
珠玉のディズニーサウンドを、笑いと驚きに満ちた圧倒的アレンジでたっぷりと聴かせた中塚。オーディエンスの心に深く感動を響かせた渾身のステージは、冷たい春の雨を吹き飛ばす、最高の盛り上がりのなかで締めくくられた。
次回のワンマンライヴは6月14日(日)渋谷JZ Bratで開催。
オーディエンスから募ったキーワードが新曲&オリジナルカクテルになってしまうという斬新過ぎる新企画『新曲三題噺(ばなし)』もいよいよスタート。
これまで以上にブラッシュアップされたライヴが、今から待ち遠しい!
(text by 青野ゆう / photos by 菊池陽一郎)
【ライヴレポート】ワンマンライヴ ’15/3/20@渋谷 JZ Brat
過去に幾度となくイベントをおこなってきた古巣、渋谷・セルリアンタワー内のライヴ&ダイニングクラブ『JZ Brat SOUND OF TOKYO』。
約1年ぶりにこの場所に戻った中塚武の、実はこの場所では初めてというワンマンライヴが3月20日の夜に開催された。
少し照明を落とした広いフロアと印象的な赤い壁、天井高のあるスタイリッシュな空間。足を踏み入れたと同時に、これから始まるライヴへの期待感で胸が膨らむ…そんな場所だ。
ステージ上にはグランドピアノ、ドラムセット、ベースが設置されており、これまでのプレミアムワンマンライヴとはひと味もふた味も違う、大きな存在感を放っている。
プレミアムワンマンライヴではおなじみの石垣健太郎(ギター)、石川周之介(サックス&フルート)に続き、鈴木郁(ドラム)、寺尾陽介(ベース)が登場。そして、軽やかにステージへとあがる中塚。メンバー全員が黒シャツ&白タイのモノトーンで決めている姿はいつになく新鮮。ピリっとした空気が超満員の客席にもびしびしと伝わってくる。
まずは華麗なドラムワークを響かせての先制パンチで、いきなり観客を圧倒!無料配信された「律動(リズム)」の変拍子ビートが、冒頭からオーディエンスを中塚ワールドへと一気に引き込む。
続けて『TAKEAHI LAB』で無料配信中のナンバー「苹果」では、メロウな声に力強い音が加わり、器の大きさを感じさせる楽曲を披露。
ここで、中塚から今後の活動報告を兼ねた挨拶が。
「昨年の夏からスタートした、アコースティックセットでのプレミアムワンマンライヴもひと区切り。これまでプレミアムだった企画をすべて『当たり前のこと』にするため、プレミアムという冠をあえて外しました。そんなワンマンライヴシリーズを『JZ Brat』にて再始動します!今日はその記念すべき第一回。来てくれて本当にどうもありがとう」
中塚らしい素直な言葉に続き、今回のおみやCD収録の「Johnny Murphy」を披露。曲にちなんだJZ Bratオリジナルカクテル「Johnny Murphy」を紹介するとともに、ライヴは中盤へと突入する。
その後、ルーパーを効かせた「トキノキセキ」では、楽器群の超絶技巧ともいえる絶妙な掛け合いに、これ以上ない熱気で会場が包まれる。
続けざまに放たれる「愛の光、孤独の影」「すばらしき世界」に至っては疾走感溢れるサウンドが大炸裂!
オーディエンスを完全に魅了するアップテンポなリズム。熱気を帯びた空気が、観客の手拍子とともにたちまち会場中に満ち溢れ、圧倒的な盛り上がりのなか1stステージは終了した。
今回のワンマンライヴからは、DJとして高橋マサル氏も参戦。
オープニングはもちろん、2ndステージまでの休憩の合間からイベント終了まで、コンセプチュアルで心地よい音の世界を創り出し、会場全体をひとつにつないだ。
2ndステージになると一転、メンバー全員がパリっと爽やかな白シャツと黒タイ姿に。
中塚はピアノを前に、そして榎本裕介(トロンボーン)、茅野嘉亮(トランペット)、竹村直哉(アルトサックス)のホーンセクションが新たに加わる。
サウンドは格段に華やかさを増し、歌い上げる声も力強く響く。
「It’s Your World」「虹を見たかい」では、4管とは思えぬほどのぶ厚いホーンセクションを鳴り響かせ、オーディエンスを瞬く間に圧倒していく。
続く「冷たい情熱」では、変拍子リズムに合わせた緊張感のあるフリューゲルのソロがストイックに響きながら、その空気感を保ったまま『白雪姫』の「ハイ・ホー」へと続く。昨年リリースのディズニー名曲のジャズカバーアルバム『Disney piano jazz “HAPPINESS”』からの1曲だ。
痛快かつスタイリッシュなアンサンブルが次々と繰り出され、会場全体はまさにヒートアップ状態。その興奮冷めやらぬまま「○の∞」から、本編ラストの「Countdown to the End of Time」と続く。
ビッグバンドを彷彿させる大迫力のステージにヒートアップしていく満員のオーディエンス。
たたみかけるようなアップテンポなリズム、魂を突き動かすブラスサウンド。ジェットコースター並みに展開していくハイスピードなステージは、最高潮の盛り上がりをみせながら、本編の締めくくりを迎える。
鳴り止まぬアンコールに応えて「Your Voice」を披露。スケールの大きなメロディと歌詞を感情ゆたかに歌い上げる中塚のヴォーカルは、記念すべきワンマンライヴのラストを華やかに飾る。
特別な夜の贅沢なステージは、圧巻のうちに幕を閉じた。
次回のワンマンライヴ@JZ Bratは6月14日に開催決定!
そして待望のリクエストコーナーは『新曲三題噺』として、なんと「リクエストされたキーワードから新曲+オリジナルカクテルを作ってしまう」という超強力コーナーにパワーアップして復活するとのこと。
どんなパワフルなステージが繰り広げられるのか、大いに期待しながらその日を待ちたい。
(text by 青野ゆう / photos by 菊池陽一郎&目良夏菜子)
【ライブレポート】プレミアムワンマンライブ@中目黒「Taste AND Sense」
笑いあり、涙ありと、聴く者の心を和ませてきてくれたプレミアムワンマンツアーも、いよいよ今回でひと区切り。そんな締めくくりに相応しいバレンタイン・イヴの夜に、7回目となるワンマンツアーが中目黒で開催された。
会場は、目黒川からほど近くにあるカフェ・レストラン『Taste AND Sense』。
ウッドテイストで統一された居心地のよい店内のテーブルには、小さなキャンドルが。ほんのりと揺れる灯りに、これから始まるライヴへの期待がいっそう高まる。
スタートまで、熱々のフィッシュ&チップスにビール、自家製サングリアや特製パスタなどで腹ごしらえ。おしゃべりも食事も弾むなか、あっという間に開演時間となった。
待ちかねていた観客の前に、にこやかに登場する石垣健太郎(ギター)、石川周之介(サックス&フルート)、そして中塚の3人。
「バレンタイン・イヴにちなんで、特別なライヴを」と切り出す中塚。なんと大胆にも、恒例のリクエストコーナー拡大版として、全曲リクエスト&クジ引きでの演奏を宣言。冒頭から観客は拍手で大喜びだ。
「最初の曲も最後の曲も、全く予想がつかないんだよね。大丈夫?」そんな中塚自身の突っ込みまでも大きな笑いを誘う最高の始まりとなった。
一曲目に引き当てたのは、知る人ぞ知る70年代のジャズボッサ・ユニット、NOVOの「白い森」。
中塚武withイガバンBBによるカバーアルバム『Big Band Back Beat』に収録のバージョンで演奏。パッと会場が温まる、そんなハッピーな雰囲気に溢れたオープニングソングで、今宵も快調にスタート。
2曲目に引いたのは前曲からガラリと変わって、なんとSEKAI NO OWARI「PRG」。
「ライヴ全体の構成をまったく無視した奇跡の曲順だね」とおどけつつも、中塚の真骨頂である、強気で攻めのアレンジを加えながら、終始メロディアスに歌い上げるその声で観客を完全に魅了する。
3曲目は、石垣がFrankie Valliの名曲を引き当てる。アルバム『Solo』に収められた名曲「Can’t Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)」。
アップテンポな導入から力強いグルーヴのブーガルーアレンジに。観客も即座に手拍子で応える盛り上がりを見せて、会場のテンションが急上昇する。
「曲目も曲順も決まってないライヴって珍しいよね」と言う中塚の問いかけに苦笑するバンドメンバー。
ワクワクの表情を交えた軽妙なトークも観客には“プレミアム”な時間。笑いの絶えないライヴはこうして絶好調で進む。
1stステージ後半には真冬にもかかわらず夏の曲が続く。くじ引きならではの意外性のある選曲がかえってまた楽しい。
誰もが聴き惚れる切れ味抜群の中塚ボイスで山下達郎「Ride On Time」をスモーキーに、サザンオールスターズ「真夏の果実」では斬新なマイナーキーでのアレンジを巧みに効かせ、それぞれ真冬に相応しい曲へと昇華。
マットな音質と息の合ったトリオの響き、そしてフィナーレへと向かうあたりは、さすがのひと言に尽きる。
大きな歓声と満面の笑顔のなかで、1stステージが終了した。
後半は、オーディエンスや店舗スタッフにも全員参加してもらおうという中塚のアイデアで、なんとビンゴゲームが登場。
オーディエンスが引き当てた田島貴男&高野寛「Winter’s Tale 冬物語」で後半1曲目がスタート。スピード感のある演奏、見ればすでにカフェのスタッフまでもが大盛り上がり。
「白い砂のテーマ」「On The Palette」「あの日、あのとき」とオリジナルナンバーが続き、本編最後に引き当てられたのは「キミの笑顔」。
思わずホロリとくる甘く切ないメロディと歌詞が観客の心に強く沁み、清々しい余韻を残してくれた。
沸き上がるめいっぱいの拍手と興奮が冷めやらぬまま、いよいよアンコールへと突入する。
「石垣さんと周さんが1曲ずつ引いて、それをメドレーにしようか?」
中塚による突然の提案に驚愕するメンバー2人が引き当てたのは、アルバム『GIRS & BOYS』収録の「Brand New Story」「Cheese Cellar」の2曲。
切なくもピュアな「Brand New Story」では、中塚の優しいボーカルと清涼感のあるアコースティックギターとの絡みが冴え渡る。心に染みるメロディ、それが波紋のように広がり、珠玉の歌声が会場中を魅了していく。
その後に間髪入れずスタートした「Cheese Cellar」では、音楽革命児・中塚ワールドが一気に加速。
ルーパーを駆使してその場でリズムとハーモニーを録音する演奏スタイル、そして抜群のグルーヴ感が一体となって、観客の興奮はノンストップのままクライマックスへ。
最後にはなんと「チョコレイトディスコ」「バレンタインキッス」のフレーズまでアドリヴで挿入しながら、強烈な熱気と高揚感に溢れたプレミアムワンマンツアーは終わりを迎えた。
3月20日は、ついに古巣JZ Bratでのワンマンライヴ。ホーンセクションも加わり、今まで以上の迫力と厚みのある演奏が繰り広げられるだけに、これも絶対に見逃せない。
(text by 青野ゆう / photos by 菊池陽一郎&目良夏菜子)
【ライブレポート】プレミアムワンマンライブ@東京タワー「TOWER’S DINER」
2015年1月、新しい年を迎えて一発目のプレミアムワンマンツアー。
今回その会場になったのは、真冬の夜空を彩る大都会のシンボルであり日本のシンボル、東京タワー。
すでに6回目となるワンマンツアーだが、中塚自身「このライヴシリーズはすごく大切な時間、大切な夜であり、自分の音楽観にも変化を与えている」と語るほど。
それは会場を訪れる観客も同様だ。特別なひと時を楽しもうと、昨年末にオープンし早くも話題殺到の東京タワー2F『タワーズダイナー』を目指し、次々と訪れる人達。期待に胸を膨らませた多くの笑顔と談笑で、店内は早くも大賑わい。
ライヴが始まるまでは、ダイナー名物のグリルドトーストとともにビールやワインで腹ごしらえ。程よく気持ちが和んできたところで、いつもお馴染のメンバー、石垣健太郎(ギター)、石川周之介(サックス)、そして中塚が登場。
歓声と拍手に包まれたダイナーは一転、ライヴハウスさながらの熱いムードに。
一曲目はアルバム「LYRICS」に収められている「虹を見たかい」。オープニングを飾るのに相応しいスウィングの効いたサウンドが会場に響くと、待っていましたとばかりに、観客も大いに盛り上がる。
「愛の光、孤独の影」「The Sweetest Time」に続き、2015年1月1日0時に合わせて無料配信された「苹果」を披露。
ほんのり可愛らしいメロディと、中塚の優しい歌声が程よくミックスされた甘酸っぱい楽曲だ。
こちらは無料配信とは違ったトリオアレンジ版の新録音が、ライヴ恒例の“おみやCD”となって観客にプレゼントされた。
その後、名曲「Your voice」が始まると、アップテンポなリズムに誘われるように観客も手拍子で応え、互いの距離感がぐっと縮まる。まさにライヴならではの醍醐味ともいえる一体感が、会場中を満たしていく。
曲終わりからそのままテナーサックスのフレーズを効かせ「すばらしき世界」へ。ここでさらに観客のボルテージもぐんとアップ。1stステージは最高潮の盛り上がりを見せて終了した。
熱い前半戦を終え、活気に満ちた店内。ブレイクタイムに観客の多くが冷たいビールで喉を潤し、いよいよ2ndステージがスタート。
小気味よさが“かっこいい”のひと言に尽きる「冷たい情熱」の演奏の後、お決まりのお楽しみリクエストボックスが登場。
と、その前に、今回注目の企画グッズ、ギターの石垣による愛らしいイラスト入りメモノートもしっかり紹介して、ひと呼吸入れる中塚。
「リクエスト演奏は、まさに修業、練習。でもそのおかげで、僕らのレパートリーは増えていくのだから、有り難く演奏させてもらいます」と言ってまず中塚が引き当てたのは、NHK-Eテレの人気番組『サイエンス0』テーマ曲の「○の∞」。
「あのビッグバンドサウンドを3人で演奏するのはものすごく大変………でも、これは嬉しい悲鳴ですね(笑)」などとおどけつつも、あの超絶技巧の楽曲を、ピッタリと息の合った鳥肌モノのトリオヴァージョンで披露してくれた。
続けて石垣が引いたのは、渋谷系を牽引してきた一曲、小沢健二「ぼくらが旅に出る理由」。
『ケイタマルヤマ2013‐2014秋冬コレクション』では、中塚がアレンジしたものを野宮真貴が歌い話題になった曲だ。
「偶然にも、歌詞に東京タワーが出てくるんですよね」と、少しアップテンポで演奏。観客から、喜びの歓声と大きな拍手が沸き起こったのは想像のとおり。
続けて、ライヴ初披露という「Dear Dad」では、まさにタイトルそのままに、深い思いの込められた歌詞をじっくりと歌い上げる。
「まさか友人のデビュー曲をここで歌うなんて」との中塚の言葉に会場が沸いた、土岐麻子の「ロマンチック」では、心地よい優しい歌声とギミックたっぷりの演奏で観客を魅了した。
リクエストコーナーを終えて間髪入れずに本編最後の楽曲へ。期待の高まるラストを飾ったのは、フリッパーズ・ギターの「恋とマシンガン」。いよいよと言わんばかりに、会場はこの夜最高の盛り上がりに達し、観客はもとより、タワーズダイナーのスタッフまでもが、カウンターの向こうでリズムに合わせて手拍子をするほどの熱気に包まれ、大興奮のうちに本編が終了した。
再び熱いアンコールの拍手で迎えられた3人。
「予定調和になってしまうのがイヤで、完全燃焼をしたいから、いつもアンコール曲は用意していないのです。なのでどうしてもコレに頼っちゃうんだよな~」と苦笑しながら中塚が手を伸ばしたのは、例のリクエストボックス。
引き当てた曲はシンディ・ローパーの「Time after Time」だ。石川の多重録音サックスに透明感のある中塚の歌声が乗り、なんとも幻想的な情景を作り出す。そうして金曜の夜に相応しい熱くメロウなライヴが幕を閉じた。
2月のバレンタイン・イヴには、なんと全曲リクエスト曲オンリーというスペシャルライヴ。そして3月には、いよいよ古巣の渋谷JZ Bratでのワンマンライヴへと続く2015年。
いったいどんな演奏で、どんなサプライズで今年は私たちを楽しませてくれるのか、今から大いに待ち遠しい。
(text by 青野ゆう / photos by 菊池陽一郎&目良夏菜子)