18日間の収録曲解説も今日で最後の曲となりました。
お付き合いいただいた皆さま、本当にありがとうございました!
初のベストアルバム『Swinger Song Writer』のラストを飾るのは、本盤唯一の新曲です。
NHK-Eテレ「サイエンスZERO」テーマ曲として今月から使用されています。
タイトル「◯の∞」は、左から右に、ゼロがまるで細胞分裂のように増殖していくさまを表しました。
ホーンセクションのコンダクトは、昨年一緒にコラボレーションアルバム『Big Band Back Beat』を作ったビッグバンド「イガバンBB」のリーダー、五十嵐誠さん。
五十嵐くんとはかれこれ3年の付き合いになりますが、彼の音楽的才能と人間的魅力に大きな尊敬の念を抱いています。何より一緒にいて楽しいんですよね。
彼との出会いは僕の人生にとっても大きな出来事のひとつです。
そしてストリングスは、この10年間ずっと僕にとって大切な存在であり続けているNAOTOくん。
高い音楽性、音楽への姿勢、すべてにおいて卓越した彼は、フィギュアスケーターのような柔軟性と陸上選手のような強靱さを兼ね備えた、素晴らしい音楽家です。
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この曲のテーマはタイトル通り、ゼロから無限大の可能性を育むこと。
素養やバックボーンがゼロのまま、中学3年生に貯めたお小遣いでカシオトーンを買って、ただただ好きで始めた音楽。
学生時代、アマチュア時代、そしてQYPTHONEデビュー後もずっと、自分の思った通りの音楽ができずに枕を濡らす日々が続きました。
そんな僕が10年ものあいだ音楽を続けられたのは、皆さんからの応援はもちろん、自分自身が自分を見捨てずに信じ続けることができたからかな、と思っています。
現時点ではゼロの才能だとしても、自分には無限の可能性があるはず。
誰に反対されようと、少なくとも自分だけは可能性を信じてあげたい。
僕自身の信念を込めたこの楽曲で、生涯初のベストアルバムを締めくくりたいと思います。
この10年間本当に温かい応援ありがとうございました。
11年目からもこんな感じのユル〜い調子だとは思いますが、今後とも何卒よろしくお願い致します!
収録曲解説⑱【〇の∞(ゼロの無限)】
収録曲解説⑰【北の国から】
ベスト盤収録曲の解説も、残すところあと2曲になりました。本ベスト盤で唯一のカバー曲です。
当初はメーカーとの打合せで「カバー曲は外そう」という話だったのですが、この曲は「カバー」という枠からはあまりにも逸脱しているので、特別に収録する運びとなりました。
僕の音楽的故郷とも言える渋谷オルガンバーには新旧の名物イベントが星の数ほどあるのですが、その中のひとつに「BLUE CAFE」という超老舗イベントがあります。
SMALL CIRCLE OF FRIENDSのアズマさん、三谷昌平さん、鈴木雅尭さんが中心となって、それはそれは最高の雰囲気と選曲を提供するイベントで、僕もQYPTHONEの頃から何かとご一緒させていただいていました。
実は『JOY』1曲目収録の「Café Bleu」はこのイベントのために書いた曲で、SCOFサツキさんも歌う日本語バージョンが存在していることは知る人ぞ知る事実です。
そのイベントの最中に「三谷さんが北海道に引っ越す」という話題が出て、僕とアズマさんがふたりで酔っ払いながら「南から北へ引っ越すから、北の国からをサンバにして『南の国から』にしよう!」などとふざけて騒いでいました。
その夜はいわゆる酔っ払いの戯言で済んでしまったのですが、しぶとい僕は虎視眈々と実現の機会を狙っていました。
それから2年ほど経った、とある日のレコーディングのこと。録音中のスタジオにスタッフが血相を変えて飛び込んで来ました。何かと思えば、なんと隣のスタジオでさだまさしさんが録音中とのこと!
「まさに神の配剤!」とばかりに、まったく面識の無いさださんのスタジオに突撃訪問して直接カヴァーの許諾を得ることができました。さださんはなんと心の広いお人なのでしょうか。
さらに、楽曲リリース後にはなんと、北海道日本ハムファイターズの応援ソングにも選ばれてしまいました。
夜中のクラブでの酔っぱらいDJ達の冗談が、あれよあれよという間に札幌ドームで日ハムファンに大合唱されるまでになるなんて、まさにドラマのような話です。
画像は石垣健太郎によるアナログ12インチのジャケット。
ブラジル感100%、富良野感ゼロ。
こんなしょーもないアイデアをまともに聞いて実現してくれるのは石垣さんだけだわ。
収録曲解説⑯【Love Wing】
2005年の2nd『Laughin’』収録の楽曲。画像はアナログ12インチのジャケットです。
2000年代は、バンドQYPTHONEがドイツデビューだったこともあって、よくヨーロッパツアーに赴いていました。
ツアー初期、古いお城を借り切って夜じゅうフロア化させるというオーストリアのとんでもないフェスに参加した時の出来事です。
僕らのライヴが終わると次のDJが、メロディも派手な構成もないインストのミニマルハウスを淡々とつなぎ始めました。すごく地味に、けれど丁寧に。
派手なライヴの後だっただけに、オーディエンスは他の盛り上がっている会場を求めて三々五々し、静かになった会場にはストイックな4つ打ちだけが響いていました。
ライヴが終わった僕らも、ホッとしながら乾杯しつつ、オーディエンス同様に他の会場のライヴなどを観に行ったりして過ごしていました。
そして4時間ほど経った朝方。元の会場へ戻るとそこには、フロアに入りきらない大勢のパーティーピーポー達が大盛り上がりで踊りまくる光景が広がっていました。
「あー、さっきの地味なDJから次の人にバトンタッチしたのかな?」
と思いながら会場に入ると、なんとさっきのDJが、4時間前とまったく変わらずに淡々とミニマルハウスを繋ぎつづけているではありませんか!
有名なキラーチューンも、ドラマチックなエフェクトも全く使わず、淡々とストイックに4つ打ちを繋げるだけでこんなにもダイナミックな空間を作り出すのか!と。
この夜が僕のDJの原体験であり、DJにおける唯一かつ最大のモチベーションとなりました。
もちろん帰国後すぐに、その原体験に自分のDJスタイルをアジャスト。
その後のQYPヨーロッパツアーでも必ずライヴ後にDJタイムを設け、最低でも2時間のセットをミニマル中心でストイックに繋ぐことにしました。
そしてその数年後、日本ではキラーチューン中心の一大「誰でもエレクトロDJ」ブームが訪れました。
テクノポップのチャート曲が響き渡るフロアに、少なくとも自分にとっての刺激はすでに存在しませんでした。
僕のDJとしてのモチベーションが終焉を迎えると同時に、あの夜に体験した身震いするようなストイックさは、自分のライヴ演奏によっても表現できることにも気づきました。
今回のベスト盤では、以前DJでよく繋いだ「Love Wing〜北の国から」への大団円を再現すべく、次曲には曲間なしのインテンポで繋げています。
収録曲解説⑮【Black Screen】
「Magic Colors」「Kiss & Ride」に続く【声の多重録音3部作】の3作目は、SHARP”AQUOS PHONE”のCM曲として制作したこの楽曲です。
声の多重録音の技法はすでに前2作で確立されていたので、この楽曲ではそれ以外の部分を進化させるべく、トラック全体のカットアップをテーマに制作していきました。
複数の曲がまるでパラレルワールドのように同時進行していて、それらを交互にザッピングさせるように音が切り替わっていく、そのようなアレンジを試みました。
音色・音量バランス・エフェクト・パンを1拍ずつガラリと変えて、Ableton LiveのLaunchpadで切り替えたようなカットアップ/マッシュアップ効果を、Launchpadワンタッチではなく作り込んだトラックで実現させました。
かなり時間と根気のいる作業でしたが、作り込んだ分思い通りの効果が得られました。
そう言えばこの楽曲のミックス作業をリアルタイムでUstream配信したのですが、スタジオの声だけをマイクを拾いながらPro Toolsの画面のみを延々5時間ほど放送するという暴挙を敢行。観てくれた皆さんの我慢強さに感謝!
そして完成と同時にiTunes Storeへ登録→即配信するという暴挙第2弾も敢行。制作と試聴の時間的カベを極限まで取り除きました。音楽も食べものも、やっぱり出来たてほやほやが一番新鮮。
今回DVDに収録されているMusic Videoは「On and On」同様にアラキツヨシ氏による作品。
頽廃したモノクロ世界が、次第にカラフルな希望へと移り変わる様子を見事に表現した素晴らしい映像作品なので、ぜひご覧になってみてください。
収録曲解説⑭【Chérie!】
2004年春の資生堂ピエヌ(現マキアージュ)CM曲として作った楽曲です。
60年代フレンチのツイスト、yéyé(イエイエ)を本場フランスで録音してみようという試みのもとに制作しました。
ファズギター、イナタい8ビート、ベースとギターのユニゾン、このシンプルさでテンションが最高に上がるのですが、yéyéにはほとんど入らないホーンセクションを足して、さらに高揚感を出しました。
リズムセクションの録音は、サザンオールスターズで有名なビクター401スタジオで一発録り。
たった2テイクほど、正味20分ほどで録音できてしまったのですが、ベーシスト美久月千晴さんによる録音後の爆笑トークが長すぎて、結局時間いっぱいまでスタジオから出られませんでした。
歌はフランス在住のボーカリストVanessaとパリでレコーディングしました。
パリのレコーディングエンジニアは予想のはるか上空を行く適当さで、30分ほど遅刻するわ、バックアップを取らずに元データをいじくって元に戻せなくなるわ、「ちょっと休憩」と言って1時間ほど外出するわ、なかなかのナイスガイでした。あの適当な感じは見習いたいなあ。
画像はソロデビューアルバム『JOY』のアナログ盤。須永辰緒さんのレーベルからリリースさせていただきました。
音質最重視の贅沢な2枚組。CDでは達成できなかった音圧がアナログで再現されていて、僕も大好きな1枚です。
実はこの曲、今回の全収録曲中で唯一、僕が楽器をまったく演奏していない曲なのです。
曲調もQYPTHONEとの接点を多く感じ、自分の音楽人生の変遷を象徴しているようで、とても思い出深い1曲です。
収録曲解説⑬【キミの笑顔】
オルビス「アクアフォース」CM使用曲として、2010年に制作した楽曲。
それまでCM曲は数多く手がけましたが、自分のボーカル曲が使用されたのはこの曲が初めてでした。
この楽曲トラックのテーマは透明感。音数は極力少なめに、歌にも楽器にもエフェクターやプラグインを極力使わず、楽器そのものが持つ音の質感を最大限活かすように意識しました。
弦楽カルテットは天井の高いスタジオで録音。その部屋鳴りの成分を活かして、ノンリバーブでも充分に深みを持たせたマイキングで録音しました。
2コーラス目から登場する3度ハーモニーのフリューゲルホーンは佐々木史郎さん。静けさと存在感を併せもった素晴らしい演奏に、レコーディング時から涙がこぼれそうに。
実はこの曲で最も音量のあるスネアドラムの音は、イコライジングで高音成分を上げるのではなく、かくし味程度に生のハイハットを足すことで存在感を出しました。もちろんリバーブもオフにして、耳のごく近くで聞こえるようにしました。
そのようにして得た一つ一つの音のアタックをさらに粒立ちさせるために、ウラ拍のスネアのタイミングでピアノ、ギター、ベースの余韻をばっさりカットしています。スネアを合図に毎回一瞬の静寂を作って、自然と言葉に耳が向くよう取り計らいました。
こうしてかなり細かい手間をほどこした結果、静かなたたずまいにもかかわらず強いオーラを持った楽曲に仕上がったと思います。
思いのほか存在感が強かったためか、オリジナルアルバムに収録するには他の楽曲となかなか馴染まず、僕名義のアルバムとしては今回がめでたく初収録と相成りました。
この楽曲を収録したコンピレーションのタイトルは、そのものズバリ『歌うピアノ男子』。タイトル案打合せの時、あまりのインパクトゆえにスタッフ全員が一斉に戸惑った顔になったのも、今となっては良い思い出です。
参加していただいたアーティストの面々は、僕が尊敬してやまない人たちばかり。
川口大輔、古瀬智志、さかいゆう、ナカムラヒロシ(i-dep)
ミトカツユキ、森大介、矢舟テツロー、渡和久(風味堂)
この編纂を機に親交が深まった方々も多く、その意味でも思い出深い1枚になりました。
続編のアイデアとして「歌うギター女子」「海の向こうのピアノ男子」「ビッグバンド女子」などもあるのですが…やっぱりタイトル戸惑います?
収録曲解説⑫【虹を見たかい】
昨年リリースのアルバム『Lyrics』収録の楽曲。
須永辰緒さんの助言とオレンジレコーズ&グルーヴあんちゃんの協力のもと、アナログ7inchカットも実現しました。画像は石垣健太郎デザインの7インチジャケです。
18パートの多重録音ホーンセクションに、打ち込みのドラムと波形編集した声サンプルを重ねて、生演奏とは毛色の違った触感を求めました。
音程のある上モノは極力ピアノとコーラスだけにとどめ、歌詞が耳に飛び込みやすくしました。
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僕の実家はいわゆる下町のアーケードの惣菜屋で、幼いころはいわゆる商店街の喧噪のなかで育ちました。
幼心に、働く大人たちもどこかおめでたいというか、なぜか「未来はどんどん幸せになる」という根拠のない楽観や、浮かれぎみな活気に社会全体が包まれていた気がします。
あのころ読んでいたマンガや絵とき図鑑も、バラ色のような21世紀を軒並み描いていました。
今ごろはみんな全身タイツみたいな服を着て、チューブのようなパイプラインで、まるで冬季オリンピック競技のスケルトンのように移動しているはずでした。
それがいつの間にか、どんよりとした無力感や虚無感が社会を覆うようになって、浮かれた気分でいようものなら、文字通り浮いてしまうような雰囲気もあります。僕が大人になったからなのか、時代の流れなのかは分かりません。
そんな空気の今だから、尚のこと「おめでたいオトナ」であり続けたい!という思いで作ったこの曲は、いわば「浮かれたオトナ讃歌」「おめでたいオトナ讃歌」です。
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実はこのオケは元々とある楽曲のトラックだったのですが、このオケを元にさらに新しいメロディを作って、あらためて歌をレコーディングしたのです。
これまでの解説をお読みくださっている方はピンと来たかもしれませんが、サビのメロディの一部に大きな共通点が残っていますので、ぜひ探してみてください。
今度ライヴで両曲をマッシュアップ演奏してみようかな。
収録曲解説⑪【Aguas de Agosto】
僕がまだソロデビューする前の1999年、コンタクトレンズ「2weekアキュビュー」CM曲として作った楽曲。
「中塚武」名義の楽曲ではないのですが、特に思い入れの強い楽曲なので、今回のベスト盤にはボーナストラック的な意味を込めて収録しました。
CMオンエア直後に数千件の問い合わせがあり、会社の電話が鳴り止まなかったらしいです。ネットが普及していない時代ならではのエピソード。そういえばこの曲すでに15年前なのか!ひえぇ…。
それを受けて「Delicatessen mixture」という覆面名義でシングルを緊急リリースする運びとなりました。
このアーティスト名はレコード会社のA&Rが決めたのですが、当時も今も
「うーん…ダサいかも」と思い続けているのはここだけの話です。
当時はビッグビートが世界を席巻していましたが、「ビッグビートの手法でジャズボッサを作ってみる」という実験を試みたのがこの楽曲です。
なので、歌・ピアノ・フルートソロ以外はすべてサンプリングで構築してみました。
歌はヴァース(Aメロ)部分しか録音しておらず、Aメロで録音した幾つかのフェイクをすべて音節で切って、コーラス(Bメロ)部分のコードに合わせて再構築しました。なのでコーラスのメロディは、実はもともと歌っていなかったメロディなのです。
ボーカルはdNessa。彼女とはこの曲を機に『JOY』『Laughin’』などで何曲も一緒に作っていくことになりました。もうアメリカに帰国してしまいましたが、今でも僕の大切な音楽的盟友です。
カップリングには僕の尊敬する先輩、須永辰緒さん、松田岳二さんにリミックスをお願いしました。僕の音楽人生に大きな影響をもたらした辰緒さんとの出会いはこの楽曲がきっかけでした。
収録曲解説⑩【SEXY VOICE AND ROBO】
2007年春の日テレドラマ「セクシーボイスアンドロボ」のメインテーマ曲として作った楽曲で、僕にとって初めてのドラマ音楽でした。
そもそもサントラ愛好家のうえに、幼少時代は「探偵物語」「熱中時代」などの日テレドラマで育った僕の血がふつふつと湧き上がり、超ハイテンションのまま全21曲を書き上げました。
今回収録のメインテーマ曲レコーディングも、僕自身の考えうる最強の布陣で臨みました。
トランペット:佐々木史郎さん、佐久間勲さん、黄”koo”啓傑さん。
トロンボーン:河合わかばさん、佐野聡さん、内田光昭さん。
サックス:吉田治さん、勝田一樹さん。
ストリングス:NAOTOストリングス。
パーカッション:MATAROさん。
ウッドベース:竹下欣伸さん。
書いているだけで身震いするような超豪華メンバーに支えられて、僕にとっても生涯忘れることのない大切な作品が完成しました。
今回の収録はメインテーマ曲ですが、ぜひサントラ盤も聴いていただきたい!
ドラマそのものの視聴率は残念ながら奮わなかったのですが、木皿泉脚本の素晴らしさ、佐藤東弥監督のマニアックな演出、本作がドラマ初主演の松山ケンイチさん・大後寿々花さんの熱演が心に焼きつく素晴らしい作品でした。
それだけにこのドラマの熱狂的ファンは多く、サントラ全曲の使用箇所や深読み解説なども、ネットで展開されていたりして驚きました。
しかも、僕が仕掛けた音楽的トラップなどがすべて解読されていたりして、その深い観察力に嬉しくなったものでした。作り手というのは、正解誤解問わず、作品を深読みしてくれることを非常に喜ぶ人種なのです。
アートワークをお願いしたのは古くからの友人カイシトモヤくん。原作マンガを大胆にフィーチャーしたジャケットデザインは最高にテンションが上がりました。オトナの事情がらみで使用許諾が下りるまでは二人ともハラハラだったのは内緒です。
収録曲解説⑨【On and On】
ファッションブランド『5351 POUR LES HOMMES』チーフデザイナー岡本剛二氏、アートクリエイターのアラキツヨシ氏、僕の3人でのコラボレーションで2010年に生まれた楽曲。彼ら2人との作業は本当に刺激的な体験でした。
この曲のメロディには、実は当初まったく別のテンポとキーでアレンジが完成しており、すでに歌録音も済ませていました。
しかし、3人コラボでの世界観が見えてくるにつれて新しいアイデアが次々に沸き、こうなったら以前のトラックをごっそり差し替えてしまおうと決断。作曲途中にもかかわらず一度リミックスすることにしました。
元のメロディのコード進行をまったく考慮に入れずに作った新しいトラックに、録音済みの歌トラックを半ば強制的に乗せてみたところ、なんともいえぬ不思議な浮遊感が得られました。
新しいトラックとメロディはBPMが全然合っていなかったのですが、タイムストレッチをあえて使わず、各音の頭だけを拍に合わせて、声の余韻をそのままブチブチッとカットしたところ、この曲の独特なボーカルの質感を生み出すことに成功しました。
これまでの「安定した曲作り」の方法をことごとく無視したこの曲の作り方は、まさにコラボでのコンセプト「既存の常識を疑い、陳腐な常識を壊す」を象徴したものとなりました。本当に完成できるかちょっぴりビビってましたけどw
Music Videoはもちろんアラキくんが制作。独特な質感の背景にコラボメンバー全員が出演するCGアニメは今回のDVDにも同梱されています。
アラキくんとはこれ以降も僕のイベントで、メインVJとして毎回最高のパフォーマンスを披露してくれています。
収録曲解説⑧【The Sweetest Time】
ニッポン放送インターネットラジオ「Suono Dolce」にて、2007年10月から5年間「TOKYO AFTER 6」という番組のナビゲーターを担当していました。
毎週生放送で3時間、映像つきでの番組ナビゲーター経験は本当に貴重なものでした。音楽制作と同じ本気度で毎週臨んでいたので、生放送から帰宅すると毎回グッタリしてベッドに倒れ込んでいました。あ、もちろん晩酌の後にですが。
5年間ということは、僕のソロ活動の半分がSuono Dolceで占められているのですが、ここで得た経験や仲間は、今でも僕にとって大きな宝物になっています。
その番組企画として、「丸の内ロール」というロールケーキに特典CDを付けて丸の内で限定販売しよう!というプロジェクトがあって、この「The Sweetest Time」はこの企画のために書き下ろした楽曲でした。
歌をお願いしたのは盟友、内藤響子さん。
【作詞/作曲1日 + 編曲1日 + 歌録音/ TD1日=合計3日間で2曲完パケ】
という超強行スケジュールの中、打合せはおろかキー合わせもしていない楽曲を、響子ちゃんはぶっつけ本番で見事にレコーディングしてくれました。響子ちゃんやっぱりスゴイなあ。
響子ちゃんボーカルの楽曲は他にも「Melody Fair」「素顔のままで」(ともに2nd Album『Laughin’収録』)があります。
レアなところでは、NEWS ZEROの「ゼーロ〜ォ」コーラスが彼女と僕の多重録音だったりもします。
収録曲解説⑦【Girls & Boys】
2006年のアルバム『GIRLS & BOYS』1曲目収録のタイトルチューンです。
速いBPMのビートにゴリゴリのウッドベースとホーンセクションを乗せたややタイトめなリズムセクション。その上にシンセをいくつも散りばめてパンニングで遊び、常に何かしらの音が飛び交っているようなトラックを作りました。
こういうトラックって、ローファイなフレーズサンプリングをひとつ加えただけで即座にサマになってしまうのですが、その手法を採らずに、あえてシンセと生音のみを組み合わせることで、独特の面白い質感を出せました。
8年前の当時は百花繚乱のフィーチャリングボーカル全盛期。僕も周囲からは、いわゆるトラックメイカー/プロデューサーとしての役割を求められていました。
当の僕自身といえば、そもそも他人のプロデューサーになるつもりはまったく無く、前2作『JOY』『Laughin’』でトラックメイカーとしてやりたいことはほぼやり尽くし、次のレベルに進みたくて仕方ありませんでした。
また、話題性やキャスティング重視のようなフィーチャリング方式にも辟易していました。
このアルバムは僕なりの「フィーチャリング訣別宣言」であり、自分名義の曲くらい自分で歌おうと、ごく当たり前のことを本格的に決意したのもこのアルバムからでした。
時代的にも多くの高いハードルがありましたが、当時の流行の波に安易に乗らなかったことで、自分の作りたい音楽をハッキリと見極められるようになりました。
孤独を経て完成にこぎつけた作品にはある種の強靱さが生まれることも、この作品の制作を通じて感じ取ることができました。
そう言えばこの曲は「ライヴで盛り上がりたいなあ」と思いながら作ったにも関わらず、これまでライヴでほとんど演奏していないことに今さら気づきました。近いうちライヴでも演ろうかな。
収録曲解説⑥【Magic Colors】
資生堂ピエヌ(現マキアージュ)2005春のCM曲として制作した楽曲。
前年(「Cherie!」使用)から担当していたこともあって、CMではかなり珍しいことなのですが、先方からは「中塚くんの好きに作ってもらって良い」と言われて作り始めました。
僕は「好きに作って良い」と言われると本当に好き勝手に作ってしまうので、作った後に「やり過ぎです…」と困惑顔で戻されることが多いのですが、そこはさすが資生堂、大きな度量で受け止めてもらえました。
自分の声を10声重ねて子音のアタックを揃え、余韻をばっさりカットしていくことで特殊な効果を得るこの手法は、その後「Kiss & Ride」「Black Screen」でさらに発展させましたが、もともとはこの曲で最初に試みました。
9年前に手作業でこれを作った時は我ながら「大発見!」と一人ほくそ笑んだものでしたが、今ではDTMの進歩もあって、ボーカルプロセッサーやグリッチなどのプラグインで簡単に再現できてしまい、内心「ナヌ〜!?」という心境でいっぱいなのはここだけの話です。
オケトラックは、アコースティックギターを2本録音して、それもやはり余韻を16分音符でカット。それぞれにリバースや軽いモジュレーションをかけてクリックハウス的なアプローチに。
「Db△9」ワンコードのような進行ですが、3拍目のベースを第一転回にすることで「Fm7(b13)」とのツーコード進行に聞こえさせています。
先日教えてもらったのですが、現在はTBS「内村のざわつく夜」のオープニングテーマとして使用されています。
9年前に好き勝手に作った曲が、9年後の今になってゴールデンタイムのTV番組から流れるのも感慨深いなあ〜…と思いつつも、ひと声かけてくれれば新曲すぐ書くのになあ〜(好き勝手に)…とも思ったりしています。
収録曲解説⑤【冷たい情熱】
アルバムでの発表は昨年の『Lyrics』ですが、曲そのものは2011年秋にホームページ無料配信TAKESHI LABで発表していました。僕の曲作りの大きな転機になった楽曲です。
リズムパターンやジャンルはもちろん、キーや拍にも囚われずに頭の中のイメージをそのまま音にするという試みを、初めて実践できたと思えた楽曲でした。
イメージに正直に作ってみたら思いっきり変拍子になってしまいました。僕の性格はどこまで歪んでいるのでしょうか。
歌詞でも大きな試みをしています。普段の生活では目を背けがちな「自分ってこれからどうなるんだろう?」という漠然とした不安を、漢文訓読的な筆致の日本語で書いてみました。
こういう曲調にこの日本語詞を乗せることで、これからの日本語曲のありようを自分なりにつかみ取ることができました。
ホーンセクションは、トランペット佐々木史郎さん、サックス本田雅人さん、トロンボーン清岡太郎さん。
史郎さんは僕のレコーディング作品では欠かすことのできない大切な方で、ホーンアレンジをする前に、まず史郎さんのスケジュールを押さえられるかでアレンジの方針が左右されるほどの最重要人物のひとりです。
この「冷たい情熱」も、史郎さんと出会わなければ生まれなかった多くの楽曲のひとつです。
今回DVDとして同梱されるMusic Videoを制作したのは杉江宏憲さん。
杉江さんがNEWS ZEROのビジュアルデザインを手がけていたことをTwitterで知り、そのままTwitter経由で意気投合して良き飲み仲間になってしまいました。SNSってすごいなあ。
完成した動画は、さすが天才としか言いようのない仕上がり。
MV公開直後にオーストリアの芸術祭アルス・エレクトロニカから突然連絡があり、なんと招待作品としてエントリーされてしまいました。杉江さん恐るべし。
ぜひ今回のDVDで堪能していただければと思います。
収録曲解説④【Café Bleu(with Clementine)】
2004年のソロデビューアルバム『JOY』の1曲目は、それまで何度か一緒に制作活動をしていたクレモンティーヌとともに作ったこの曲でした。
それまでにも彼女のアルバムでフランシスレイの「男と女(Un homme et une femme)」カヴァー、鈴木雅之さんトリビュートアルバム「ガラス越しに消えた夏」での彼女とcobaさんとの3者コラボなどを制作していましたが、僕の名義ではこの曲が初めてのコラボ録音となりました。
その後も彼女のアルバムに僕が参加したり、彼女の娘さんの制作を手伝ったりと、何かと一緒に制作していたのですが、すべて東京⇔パリ間でのデータのやりとりだけだったので、実は直接お会いしたのはこの曲から3年後でした。
お互い会ったこともないまま何曲も遠距離作曲してたなんて、文通みたいでちょっとイイ感じ。
ホーンセクションは、フリューゲルホーン数原晋さん、サックス平原まことさん、トロンボーンFred Simmonsという超大御所のお歴々。よく物怖じしなかったものだと、当時の生意気な自分の頭を小突いてやりたいです。
数原さんが僕のアレンジを気に入ってレコーディング中の空気を柔らかくしてくださったことが、この曲全体の雰囲気を作ったと言っても過言ではありません。ソロデビュー1曲目を彼らの演奏で飾れた僕は幸せ者です。
『JOY』のジャケットは2種類あって、左が代々木公園で撮影した初回盤、右が横浜赤レンガ倉庫で撮影した増刷盤です。ハマっ子の僕としては赤レンガ盤の方が思い入れがあるかな。
ちなみに増刷盤で弾いているオルガンは、スタンド付き(!)のKORG初代BX-3です。
収録曲解説③【Countdown to the End of Time】
この楽曲を収録した2010年のアルバム『Rock’n’Roll Circus』は、初めて僕がゲストをまったく招聘せずに作った作品で、自分自身の思い入れも相当に強いものがあります。
ファッションブランド『5351 POUR LES HOMMES』チーフデザイナー岡本剛二氏・アートクリエイターのアラキツヨシ氏・僕の3人で「完全にメディアミックスしたコラボをしてみよう」と意気投合して制作したこのアルバムは、従来とまったく異なる方法で制作しました。
いわゆる「1曲単位でのラフスケッチ」をまったく作らずに、思いついた楽想のかけらをとにかく片っ端から録音して、それらをアドリブ的に組み合わせて1コーラス分のシーケンスを作成。この段階まで作って初めてメロディを乗せる、という手法を採りました。
化学反応やセレンディピティを求めたこの制作方法は、自分が思いもよらない音楽に仕上がって本当に刺激的でした。
この方法によって、まるでアルバム全体が1曲であるかのような、不思議な統一感のある作品を生み出すことができました。スタジオ代が半端なかったですが…汗。
アルバム1曲目を飾ったこの楽曲も、最終着地地点がどこになるか分からないまま、とにかくBPMとキーだけを決めて7管編成のホーンフレーズを録音してしまい、レコーディング後に大きくカット&エディットを施しています。
なので、最終的なフレーズはレコーディング時に演奏したものから大きく変化しました。
副田整歩さんのサックスソロには”SupaTrigga”というプラグインをかけて再編集し、強烈な効果を生み出しています。
曲の完成後、副田くんに「せっかく吹いていただいたソロ、こんなにしちゃいました…」と恐る恐る白状すると「めちゃくちゃカッコイイ!」と喜んでもらえたので、ホッと胸をなで下ろしたものでした。
収録曲解説②【Your Voice(sings with 土岐麻子)】
QYPTHONEデビュー当時から仲良しだった土岐麻子嬢とコラボした2006年の楽曲。
子どもの頃に大好きだった「We Are The World」メイキングビデオを観て一番驚いたのは、まず最初に歌やコーラスを録音して、その後にミュージシャンがバッキングを演奏していたことでした。
子どもごころに「えっ、順序が逆じゃん!?」と戸惑ったと同時に、レコーディングの最終段階で、冒頭イントロにシンセが「キラキラ…→ドーン!」と入った時の鮮烈さもいまだに憶えています。
音楽家になってからはその制作順序も普通の手段のひとつになりましたが、この「Your Voice」では、その手法を積極的に使ってみようと制作に臨みました。
もちろん僕の頭の中の完成イメージは出来ているのですが、土岐ちゃんに歌ってもらう際のヘッドアレンジは、ピアノとシンセベースと薄っぺらいリズムだけで、当時の土岐ちゃんのマネージャーさんに「えっと…こういうアレンジの曲なのですか…?」と真顔で訊かれ、焦って説明した憶えがあります。
すべての音楽家がそうだと思いますが、僕も曲を作るときには「10年経っても古いと思われない、みずみずしいままの楽曲」を目指しています。
7年の時を経た昨年になって、この曲がアニメ「きんいろモザイク」のエンディングテーマとしてカヴァーされると聞いた時に、曲がりなりにもなんとか風化を乗り越えることができたのかなと、ひとり溜飲をさげました。
収録曲解説①【Kiss & Ride】
本日より、4/23リリースの僕のベストアルバム『Swinger Song Writer』収録曲の各曲解説をしてみたいと思います。
1日1曲。全18曲で18日間、どうぞよろしくお付き合いください。
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収録曲解説①【Kiss & Ride】
(from 4th Album『KISS & RIDE』)
2008年の4thアルバム『KISS & RIDE』のタイトルチューン。
モンドリアン風のワンピースをまとった柴咲コウさん、大泉洋さんが出演したグリコのガム「POs-Ca(ポスカ)」CM音楽に使用されました。
その数年後にKONAMIのアーケードゲーム「jubeat」シリーズにも使用され、図らずも僕のアーケードゲーム音楽デビューは、古巣ナムコではなくコナミによって果たされることとなりました。うーん、複雑な気分。
メインのコーラスパートは7パート合計21声を1人ダビング。まずは声だけでアカペラミックスを完成させてグリッチエフェクトをかけ、さらにそこから波形をカットアップしてフレーズを再構築する、という気の遠くなる作業で作成しました。
オリジナルアルバムバージョン発表当時は、僕がDJをやっていたこともあって、プレイ中にエフェクトなどを加えるためにあえて曲尺を長くしていましたが、僕の活動がDJからライヴに移行するうちに、次第にライヴに特化したアレンジに進化していきました。
今回のベスト盤を機に、曲尺も再構築しつつライヴでのピアノフレーズも新たに録音し直し、オリジナルからさらに進化させた「Kiss & Ride」として収録しました。この盤だけの最新バージョンをぜひご堪能ください。
<我慢と粘り>
僕は「我慢」があまり好きではありません。
というか大キライです。
好きなことをしない「我慢」。
嫌いなことをする「我慢」。
自分に責任さえ持てれば、こんな我慢は全くしなくても良いと思っています。
その一方で「粘り」はすごく大切だと思っています。
好きなことで壁を乗り越えるための「粘り」。
嫌いなことをしないために払う「粘り」。
一見すると「我慢」に近いこの「粘り」という行為も、こうして並べて書いてみれば、その目的がまったく違うことに気づきます。
「我慢」の向こう側には「自己犠牲」が存在します。
「粘り」の向こう側には「生産性」が存在します。
「我慢などまったくしない」と言い切るには、なかなかの勇気が要ります。
我慢しない分、自分の役割にとことん粘る姿勢を貫けば良いと思っています。
<メッセージソング>
単なる感情の吐露だけのメッセージソング、
政治的信条や賛成反対を叫ぶばかりの単純な音楽、
それならば、時事川柳や床屋政談の方がまだマシだ。
直接的なメッセージを伝えたいなら、わざわざメロディに乗せなくとも、ただ声や文章で叫べば良い。
それでもどうしてもメッセージを訴えたいなら、音楽として語感を丁寧に紡ぐことが大切。
「メロディ・詞・歌声が同時に耳に入って来た時の心地よさ」
をしっかり追求してこそ、歌詞の内容に感情移入できる。
内容・音感・語感が渾然一体となってはじめて、「言葉」は「歌詞」へと昇華される。
頭で考えさせるばかりで聴感をないがしろにするメッセージソングは、両耳に失礼だ。
<新しさ>
「送り手の未熟」と「受け手の誤解」
この2つだけで、新しさが生まれてしまうこともある。
新しさなんて案外そんなものだったりするから、
「新しいものを作ろう」
と力む必要なんてない。
むしろ、力むことで強気から弱気に変わってしまうこともある。
ものを作る上での大敵は「新しさ」よりも「弱気」に潜んでいる。
<ムダな努力の回避>
才能も技術も、それに伴う努力や訓練も、すべて単なる
「癖」
だと考えれば、見当違いでムダな努力をせずに済む。
癖になるようなら自分に向いているし、
癖にならないようなら向いていない。
自分がやるべきことの基準が分かりやすくなる。
<なるべく単純に>
単純明快なことを「短絡的」「軽率」だと勘違いしてしまうと、
問題が複雑になる。
「短絡的」「軽率」と違って、
「単純」は複雑な問題を丁寧に解決した向こうにある。
単純なことは単純に。
複雑なことも単純に。
悩みも単純に。
結論も単純に。
アイデアも単純に。
コンセプトも単純に。
アウトプットも単純に。
誰の頭の中も複雑な感情でいっぱいなのだから、
せめて自分からの発信は単純にする。
<どこを向いても良い>
前を向けば道がある。
上を向けば空がある。
横を向けば仲間がいる。
後ろを向けば守る人がいる。
疲れて下を向いたって草花が咲いている。
どこを向いても人生は素晴らしい。
<多数決の毒>
ものを創り出す前にまずどうしてもやらないといけないのは、
「多数決の毒を極力排除する」
ということ。
幼いころから人生のさまざまな場面での選択肢を多数決で選んできた、またそう学んできた僕たちにとって、大人になっても問題意識なく多数決の意義を信じてしまっていることが多い。
それらすべてを強い注意力で洗い出して、制作の前にすべて捨てていく。
これは「少数派を選ぶ」ということではない。
少数派を選ぶ意識は、裏を返せば多数決を気にしているということ。
多数でも少数でもなく、自分の思うとおりに事を進める意思を取り戻してから、ようやく制作にとりかかる。
<ものを作る時人の忍耐力>
ものを作る時人の忍耐力は、
アイデアを生み出す時でもない。
他人からの厳しい意見に耐える時でもない。
弛みなく生み続ける時でもない。
言いたいことのすべてを口に出さない忍耐力こそが必要。
<認められるという試練>
「他人に認められた」時は次のステップの大きな原動力になるけれど、
それと同時に「また同じように認められたい」とも思ってしまいがち。
「他人に認められたい」という感情を原動力にしてはいけない。
他人の評価に頼れば自分不在の活動になり、自分不在の活動には何の意味も無い。
他人に認められた時こそ、自分自身をフラットに保つ試練だと肝に銘じる時。
<まやかしの言葉>
新しさ。
個性。
創造力。
これらの言葉は自分自身が意識するものだと間違えがちだが、実は他人が評価するための言葉。
しかも他人がこの言葉を使う時は、社会的成功があっての結果論が多い。
つまり、これらの言葉は結局まやかしに過ぎない。
こんな言葉を気にする時間があるなら、その分基礎の反復練習に充てれば良い。
新しさよりも個性よりも創造力よりも大切なのは、
「美意識を形にすること」
だけ。
<音楽家の生涯>
妥協せずに仕事をするばかりに、
周囲との軋轢のせいで大きな成功もなく、
有力者の金魚の糞にならないばかりに、
可愛げがないと評されて大した抜擢もなく、
仕事に没頭し異業種との接点を持たないばかりに、
社会に大きなインパクトを与えることもなく、
不遇のうちに死ねば、
まもなく自分の名前も作品とともに忘れ去られていく。
妥協しない人生も悪くない。
<「何を」でなく「どれだけ」>
信念の強度は「何を信じるか」ではなく「どれだけ信じるか」に拠る。
名言や自己啓発の類に振り回されている時は、信じるものごとの種類が多すぎるのかも知れない。
<作品の鑑賞>
その分野での初心者は、あえて事前情報に触れずに作品を味わう姿勢が大切。
そうすることで未熟な先入観を回避できる。
中級者になると、その分野ですでに多くの情報を知ってしまっている。
なので、先入観や事前情報に囚われずに作品を味わう柔軟性が大切。
そうすることで視野の狭さを克服できる。
中級者を過ぎると、自分自身の作品にも生き方にも信念が確立している。
なので、先入観や事前情報を踏まえた上で作品を味わう懐の深さが大切。
そうすることで初心にかえることができる。
<呼吸>
何を始めるにもまずは自分の呼吸をコントロールする。
自分の呼吸をコントロールできずに他の何物をもコントロールできない。
呼吸のコントロールの難しさを実際に感じとる。
いかに呼吸のコントロールが難しいかを知ることで、他の何物のコントロールがさらに難しいことを知る。
呼吸を意識することは、コントロールできるものとできないもののを見分けをつける力を養う。
そして、コントロールできないものを見限る気力を養う。
<情報は内から>
どんなことでも、自分の身体からの声を正直に聞けば本質が分かる。
情報社会では、外からの情報で自分が動かされやすい。
外からの情報ではなく、自分の中からの情報を大切にする。
<もの分かり>
他人の意見に対して、もの分かり良く行動する必要はない。
自分の思いに対してこそ、もの分かり良く行動することが大切。
もの分かりの良さは、他人の意見の具体化のためではなく、自分の行動を絞り込むために駆使する。
<音楽と言葉>
音楽は、言葉にできない感情を紡いでいる。
3分の楽曲を言葉にしようとすれば少なくとも3日はかかるし、しかも結局は語りつくせない。
ましてや名曲なぞを語ろうとすれば何百年もかかるし、これも結局は語りつくせない。
にもかかわらず、聴き手はその感動を何とか言葉で表現しようとする。
聴き手のその思いが、何百年前の音楽を「古典」として語りつぐ原動力になる。
「音楽は、言葉では言えないものを作る」
というのは、実は作り手の心理的都合にすぎない。
「音楽は、聴き手の言葉によっても大きく伝播する」
という、多数の作り手が見落としている当然の事実を肝に命じなければならない。
<原則非同期>
自分の生き方、考え方を、他の何かと同期させない。
他人と同期させない。
環境と同期させない。
過去と同期させない。
常識と同期させない。
世間と同期させない。
ましてや国家とは何をか言わんや。
<嫌いになってから>
やらなければ恐れる。
やれば好きになる。
やり過ぎると嫌いになる。
それでも続けてようやく血肉になる。
やり過ぎで止めれば嫌いのまま終わる。
だから、嫌いになった時にこそ続ける。
嫌いになってからが本当の始まり。
好きでも嫌いでもなくなって、はじめて自分の生き方になる。
<やる気>
何か物事がうまく進まない時には必ず、誰か「やる気のない人」がいる。
それは自分かも知れないし、仲間かも知れない。
物事がうまく進まない時にはまず、
・自分のやる気を、自分自身正直に問い正す。
・仲間のやる気を、客観的に見つめてみる。
・やる気のない人(自分または仲間)をその任から離し、別の任に就かせる(または就く)。
「やる気がない」と「能力がない」は全く別次元の話にもかかわらず、「結果が出ない」という意味では、傍から同じように見えてしまう。
「やる気がない」というのは、実は罪ではない。
「やる気のでるところ」に移動すれば良いだけ。
<大きなことを考えている時>
自分自身のキャパから離れた大きなこと、
・大きな国際問題
・日本の政治の行く末
・資本主義社会の限界
・1000年後の地球環境
などを考えている時は、
(1)夢と希望にあふれている
(2)目先の面倒なことから逃げたがっている
のどちらか。
しかも、たいてい(2)の方が多い。
—
そんな時は、
・今やるべきことを全部やって、
・トイレに行って、
・翌朝までぐっすり寝てみる。
ほとんどの場合、翌朝にはきちんと自分自身の課題に向き合えるようになっている。
—
大きなことを考えるというのは、小さなことから逃避する手段にもなり得る。
自分自身の問題を解決できない人間に、人間社会の問題を解決できる訳がないと、普段から肝に銘じておく。
<鮮度の選択>
気持ちの鮮度、アイデアの鮮度はバカにできない。
ただし、情報の鮮度を追求するのは非常に危険。
流行や他人の目や世間の空気ばかりを気にするようになると、もっとも大切な自分自身の鮮度を失う。
流行を追えば流行の老廃物になる。
追うべきは自分自身の気持ちの鮮度だけ。
<やりたいこととできること>
「やりたいことをやる」
を最優先させると同時に、
「やりたくないことをやらない」
も大切にする。
そこには
「できるかどうか?」
の検討はまったく必要ない。
「できること」
を優先させてしまうと、人生は、
「やりたくないけどできること」
で埋まってしまう。
<結果とは>
「結果を出す」ことと「数字を出す」ことがイコールに思っている人が大多数を占めている。
僕が思う「結果を出す」というのは、もっと単純に、
「自分も他人も幸せな気分になること」
だと思っている。
それを甘いと感じる人も大多数を占めている。
「ビジネスの世界では数字は当然だ」と言う。
ビジネスの世界って何だろう?
ビジネスの世界という場所に24時間365日いるのだろうか?
少なくとも僕は人間の世界に生きていると思っている。
だから「結果」とは「数字」でなく「幸せの提供度」なのだと思っている。
<朗読アプリ案>
書籍や雑誌を、
→PDF化
→OCRで文字認識
→VOCALOIDで音声変換
→MP3でオーディオブック化。
こんなアプリがあればジョギング中に読みたい本が聞ける。
「有名俳優や声優によるVOCALOID朗読アプリ」
みたいなバリエーションがあればいいなあ。
<機嫌という仕事>
機嫌の良い状態の作品は、明るいオーラも暗いオーラも放ちやすい。
機嫌の悪い状態の作品は、明るいオーラを放ちにくい。
ということは、「機嫌の良い状態」を保つことが作品の幅を広げる重要な仕事のひとつだと言える。
「ポジティブ思考」とか「人生を明るく」とかそういう生活のコツの類ではなく、
「機嫌を良くする」ことは、ものを作る人にとって重要な仕事のひとつだ
と捉える。
<選択肢を多角化する>
白黒はっきりと結論が得られない場合、
「白と黒のあいだのグレー」
という安易な妥協点を選択する前に、まったく別の視点から、
「赤・黄色・青」
という選択肢を探してみる。
モノクロで考えていたことをカラーで考えてみるだけで簡単に解決することも多い。
二択は敵と味方を生むが、三択以上は価値観の尊重を生む。
<その時の「感動した」は本当か?>
自分の感動を疑うことって、実はあまりないと思う。
でも、その時の「感動した」は果たして本当なのか?
単なる先入観ではないのか?
前評判に踊らされていないか?
著名人だからではないのか?
劣等感からの逃避に都合が良いからではないのか?
大多数の意見に飲まれていないか?
好きな人が推しているからではないのか?
自分の感動さえ疑うことを「野暮」だと感じるかも知れない。
「野暮」だと感じる時は、自分の現状という殻を抜け出す必要がないと思っている時。
もし自分の殻を破りたければ、野暮であろうが何であろうが、自分の感動する心そのものさえ見直す覚悟がいる。
<効率的な練習の善し悪し>
効率を考えて練習をしていると、知らぬ間に脳も身体も「節約モード」になってしまう時がある。
「メニューの効率」と「身体の使い方の効率」というのは、明確に分離して考えなければいけない。
でないと、練習メニューを効率的にしようとするがあまり、練習そのものでも効率的にこなしてしまい、身体を限界まで痛めつける試みを怖がったり、エネルギーを最大に発散させたりすることを止めてしまう。
演奏では、エネルギーを最大級に発散させることで聴き手とのエネルギーの交流が生まれ、その交流が全体の感動を呼び起こす。
「脳や身体の効率を度外視し、ストッパーを外す」
という練習も、効率的な練習と同じくらい必要。
<「道」と「教」>
「道」は自分の鍛錬をきっかけにする。
「教」は他人の導きをきっかけにする。
「道」には明確なゴールはない。
「教」には明確なゴールが示されている。
「道」はプロセスそのものに価値を求める。
「教」は悟りそのものに価値を求める。
決定的な相違点ばかりだけれど、ひとつ共通点がある。
「道」も「教」も、本来は自主的なものだということ。
自分で考え、自分で動き、自分で悩み抜いた時に、はじめて助けになるもの。
「癒し」だとか、
「心のスキマ」だとか、
「マニュアル」だとか、
「○○日でマスター」だとか、
そういう類とは真逆にあるものが、本来の「道」であり「教」だと思う。
<意思決定+時間軸>
楽曲は意思決定の積み重ねだから、
「なぜその音を選んだのか?」
を、作曲者は一音一音すべてに説明できる。
けれど、それをしない。
なぜなら、一音一音は説明できても、それらの「繋がり」は楽曲を聴く以外に感じてもらえる方法はないから。
音楽とは、意思決定を時間軸で表現するもの。
<破壊の前提条件>
「何かを破壊して新しいことを創造してやろう」という心意気は良いが、その前にまず日々の鍛錬や勉強でその「何か」とは何か?を知らなければ、創造はおろか破壊さえできない。