18日間の収録曲解説も今日で最後の曲となりました。
お付き合いいただいた皆さま、本当にありがとうございました!
初のベストアルバム『Swinger Song Writer』のラストを飾るのは、本盤唯一の新曲です。
NHK-Eテレ「サイエンスZERO」テーマ曲として今月から使用されています。
タイトル「◯の∞」は、左から右に、ゼロがまるで細胞分裂のように増殖していくさまを表しました。
ホーンセクションのコンダクトは、昨年一緒にコラボレーションアルバム『Big Band Back Beat』を作ったビッグバンド「イガバンBB」のリーダー、五十嵐誠さん。
五十嵐くんとはかれこれ3年の付き合いになりますが、彼の音楽的才能と人間的魅力に大きな尊敬の念を抱いています。何より一緒にいて楽しいんですよね。
彼との出会いは僕の人生にとっても大きな出来事のひとつです。
そしてストリングスは、この10年間ずっと僕にとって大切な存在であり続けているNAOTOくん。
高い音楽性、音楽への姿勢、すべてにおいて卓越した彼は、フィギュアスケーターのような柔軟性と陸上選手のような強靱さを兼ね備えた、素晴らしい音楽家です。
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この曲のテーマはタイトル通り、ゼロから無限大の可能性を育むこと。
素養やバックボーンがゼロのまま、中学3年生に貯めたお小遣いでカシオトーンを買って、ただただ好きで始めた音楽。
学生時代、アマチュア時代、そしてQYPTHONEデビュー後もずっと、自分の思った通りの音楽ができずに枕を濡らす日々が続きました。
そんな僕が10年ものあいだ音楽を続けられたのは、皆さんからの応援はもちろん、自分自身が自分を見捨てずに信じ続けることができたからかな、と思っています。
現時点ではゼロの才能だとしても、自分には無限の可能性があるはず。
誰に反対されようと、少なくとも自分だけは可能性を信じてあげたい。
僕自身の信念を込めたこの楽曲で、生涯初のベストアルバムを締めくくりたいと思います。
この10年間本当に温かい応援ありがとうございました。
11年目からもこんな感じのユル〜い調子だとは思いますが、今後とも何卒よろしくお願い致します!
収録曲解説⑱【〇の∞(ゼロの無限)】
収録曲解説⑰【北の国から】
ベスト盤収録曲の解説も、残すところあと2曲になりました。本ベスト盤で唯一のカバー曲です。
当初はメーカーとの打合せで「カバー曲は外そう」という話だったのですが、この曲は「カバー」という枠からはあまりにも逸脱しているので、特別に収録する運びとなりました。
僕の音楽的故郷とも言える渋谷オルガンバーには新旧の名物イベントが星の数ほどあるのですが、その中のひとつに「BLUE CAFE」という超老舗イベントがあります。
SMALL CIRCLE OF FRIENDSのアズマさん、三谷昌平さん、鈴木雅尭さんが中心となって、それはそれは最高の雰囲気と選曲を提供するイベントで、僕もQYPTHONEの頃から何かとご一緒させていただいていました。
実は『JOY』1曲目収録の「Café Bleu」はこのイベントのために書いた曲で、SCOFサツキさんも歌う日本語バージョンが存在していることは知る人ぞ知る事実です。
そのイベントの最中に「三谷さんが北海道に引っ越す」という話題が出て、僕とアズマさんがふたりで酔っ払いながら「南から北へ引っ越すから、北の国からをサンバにして『南の国から』にしよう!」などとふざけて騒いでいました。
その夜はいわゆる酔っ払いの戯言で済んでしまったのですが、しぶとい僕は虎視眈々と実現の機会を狙っていました。
それから2年ほど経った、とある日のレコーディングのこと。録音中のスタジオにスタッフが血相を変えて飛び込んで来ました。何かと思えば、なんと隣のスタジオでさだまさしさんが録音中とのこと!
「まさに神の配剤!」とばかりに、まったく面識の無いさださんのスタジオに突撃訪問して直接カヴァーの許諾を得ることができました。さださんはなんと心の広いお人なのでしょうか。
さらに、楽曲リリース後にはなんと、北海道日本ハムファイターズの応援ソングにも選ばれてしまいました。
夜中のクラブでの酔っぱらいDJ達の冗談が、あれよあれよという間に札幌ドームで日ハムファンに大合唱されるまでになるなんて、まさにドラマのような話です。
画像は石垣健太郎によるアナログ12インチのジャケット。
ブラジル感100%、富良野感ゼロ。
こんなしょーもないアイデアをまともに聞いて実現してくれるのは石垣さんだけだわ。
収録曲解説⑯【Love Wing】
2005年の2nd『Laughin’』収録の楽曲。画像はアナログ12インチのジャケットです。
2000年代は、バンドQYPTHONEがドイツデビューだったこともあって、よくヨーロッパツアーに赴いていました。
ツアー初期、古いお城を借り切って夜じゅうフロア化させるというオーストリアのとんでもないフェスに参加した時の出来事です。
僕らのライヴが終わると次のDJが、メロディも派手な構成もないインストのミニマルハウスを淡々とつなぎ始めました。すごく地味に、けれど丁寧に。
派手なライヴの後だっただけに、オーディエンスは他の盛り上がっている会場を求めて三々五々し、静かになった会場にはストイックな4つ打ちだけが響いていました。
ライヴが終わった僕らも、ホッとしながら乾杯しつつ、オーディエンス同様に他の会場のライヴなどを観に行ったりして過ごしていました。
そして4時間ほど経った朝方。元の会場へ戻るとそこには、フロアに入りきらない大勢のパーティーピーポー達が大盛り上がりで踊りまくる光景が広がっていました。
「あー、さっきの地味なDJから次の人にバトンタッチしたのかな?」
と思いながら会場に入ると、なんとさっきのDJが、4時間前とまったく変わらずに淡々とミニマルハウスを繋ぎつづけているではありませんか!
有名なキラーチューンも、ドラマチックなエフェクトも全く使わず、淡々とストイックに4つ打ちを繋げるだけでこんなにもダイナミックな空間を作り出すのか!と。
この夜が僕のDJの原体験であり、DJにおける唯一かつ最大のモチベーションとなりました。
もちろん帰国後すぐに、その原体験に自分のDJスタイルをアジャスト。
その後のQYPヨーロッパツアーでも必ずライヴ後にDJタイムを設け、最低でも2時間のセットをミニマル中心でストイックに繋ぐことにしました。
そしてその数年後、日本ではキラーチューン中心の一大「誰でもエレクトロDJ」ブームが訪れました。
テクノポップのチャート曲が響き渡るフロアに、少なくとも自分にとっての刺激はすでに存在しませんでした。
僕のDJとしてのモチベーションが終焉を迎えると同時に、あの夜に体験した身震いするようなストイックさは、自分のライヴ演奏によっても表現できることにも気づきました。
今回のベスト盤では、以前DJでよく繋いだ「Love Wing〜北の国から」への大団円を再現すべく、次曲には曲間なしのインテンポで繋げています。
収録曲解説⑮【Black Screen】
「Magic Colors」「Kiss & Ride」に続く【声の多重録音3部作】の3作目は、SHARP”AQUOS PHONE”のCM曲として制作したこの楽曲です。
声の多重録音の技法はすでに前2作で確立されていたので、この楽曲ではそれ以外の部分を進化させるべく、トラック全体のカットアップをテーマに制作していきました。
複数の曲がまるでパラレルワールドのように同時進行していて、それらを交互にザッピングさせるように音が切り替わっていく、そのようなアレンジを試みました。
音色・音量バランス・エフェクト・パンを1拍ずつガラリと変えて、Ableton LiveのLaunchpadで切り替えたようなカットアップ/マッシュアップ効果を、Launchpadワンタッチではなく作り込んだトラックで実現させました。
かなり時間と根気のいる作業でしたが、作り込んだ分思い通りの効果が得られました。
そう言えばこの楽曲のミックス作業をリアルタイムでUstream配信したのですが、スタジオの声だけをマイクを拾いながらPro Toolsの画面のみを延々5時間ほど放送するという暴挙を敢行。観てくれた皆さんの我慢強さに感謝!
そして完成と同時にiTunes Storeへ登録→即配信するという暴挙第2弾も敢行。制作と試聴の時間的カベを極限まで取り除きました。音楽も食べものも、やっぱり出来たてほやほやが一番新鮮。
今回DVDに収録されているMusic Videoは「On and On」同様にアラキツヨシ氏による作品。
頽廃したモノクロ世界が、次第にカラフルな希望へと移り変わる様子を見事に表現した素晴らしい映像作品なので、ぜひご覧になってみてください。
収録曲解説⑭【Chérie!】
2004年春の資生堂ピエヌ(現マキアージュ)CM曲として作った楽曲です。
60年代フレンチのツイスト、yéyé(イエイエ)を本場フランスで録音してみようという試みのもとに制作しました。
ファズギター、イナタい8ビート、ベースとギターのユニゾン、このシンプルさでテンションが最高に上がるのですが、yéyéにはほとんど入らないホーンセクションを足して、さらに高揚感を出しました。
リズムセクションの録音は、サザンオールスターズで有名なビクター401スタジオで一発録り。
たった2テイクほど、正味20分ほどで録音できてしまったのですが、ベーシスト美久月千晴さんによる録音後の爆笑トークが長すぎて、結局時間いっぱいまでスタジオから出られませんでした。
歌はフランス在住のボーカリストVanessaとパリでレコーディングしました。
パリのレコーディングエンジニアは予想のはるか上空を行く適当さで、30分ほど遅刻するわ、バックアップを取らずに元データをいじくって元に戻せなくなるわ、「ちょっと休憩」と言って1時間ほど外出するわ、なかなかのナイスガイでした。あの適当な感じは見習いたいなあ。
画像はソロデビューアルバム『JOY』のアナログ盤。須永辰緒さんのレーベルからリリースさせていただきました。
音質最重視の贅沢な2枚組。CDでは達成できなかった音圧がアナログで再現されていて、僕も大好きな1枚です。
実はこの曲、今回の全収録曲中で唯一、僕が楽器をまったく演奏していない曲なのです。
曲調もQYPTHONEとの接点を多く感じ、自分の音楽人生の変遷を象徴しているようで、とても思い出深い1曲です。
収録曲解説⑬【キミの笑顔】
オルビス「アクアフォース」CM使用曲として、2010年に制作した楽曲。
それまでCM曲は数多く手がけましたが、自分のボーカル曲が使用されたのはこの曲が初めてでした。
この楽曲トラックのテーマは透明感。音数は極力少なめに、歌にも楽器にもエフェクターやプラグインを極力使わず、楽器そのものが持つ音の質感を最大限活かすように意識しました。
弦楽カルテットは天井の高いスタジオで録音。その部屋鳴りの成分を活かして、ノンリバーブでも充分に深みを持たせたマイキングで録音しました。
2コーラス目から登場する3度ハーモニーのフリューゲルホーンは佐々木史郎さん。静けさと存在感を併せもった素晴らしい演奏に、レコーディング時から涙がこぼれそうに。
実はこの曲で最も音量のあるスネアドラムの音は、イコライジングで高音成分を上げるのではなく、かくし味程度に生のハイハットを足すことで存在感を出しました。もちろんリバーブもオフにして、耳のごく近くで聞こえるようにしました。
そのようにして得た一つ一つの音のアタックをさらに粒立ちさせるために、ウラ拍のスネアのタイミングでピアノ、ギター、ベースの余韻をばっさりカットしています。スネアを合図に毎回一瞬の静寂を作って、自然と言葉に耳が向くよう取り計らいました。
こうしてかなり細かい手間をほどこした結果、静かなたたずまいにもかかわらず強いオーラを持った楽曲に仕上がったと思います。
思いのほか存在感が強かったためか、オリジナルアルバムに収録するには他の楽曲となかなか馴染まず、僕名義のアルバムとしては今回がめでたく初収録と相成りました。
この楽曲を収録したコンピレーションのタイトルは、そのものズバリ『歌うピアノ男子』。タイトル案打合せの時、あまりのインパクトゆえにスタッフ全員が一斉に戸惑った顔になったのも、今となっては良い思い出です。
参加していただいたアーティストの面々は、僕が尊敬してやまない人たちばかり。
川口大輔、古瀬智志、さかいゆう、ナカムラヒロシ(i-dep)
ミトカツユキ、森大介、矢舟テツロー、渡和久(風味堂)
この編纂を機に親交が深まった方々も多く、その意味でも思い出深い1枚になりました。
続編のアイデアとして「歌うギター女子」「海の向こうのピアノ男子」「ビッグバンド女子」などもあるのですが…やっぱりタイトル戸惑います?
収録曲解説⑫【虹を見たかい】
昨年リリースのアルバム『Lyrics』収録の楽曲。
須永辰緒さんの助言とオレンジレコーズ&グルーヴあんちゃんの協力のもと、アナログ7inchカットも実現しました。画像は石垣健太郎デザインの7インチジャケです。
18パートの多重録音ホーンセクションに、打ち込みのドラムと波形編集した声サンプルを重ねて、生演奏とは毛色の違った触感を求めました。
音程のある上モノは極力ピアノとコーラスだけにとどめ、歌詞が耳に飛び込みやすくしました。
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僕の実家はいわゆる下町のアーケードの惣菜屋で、幼いころはいわゆる商店街の喧噪のなかで育ちました。
幼心に、働く大人たちもどこかおめでたいというか、なぜか「未来はどんどん幸せになる」という根拠のない楽観や、浮かれぎみな活気に社会全体が包まれていた気がします。
あのころ読んでいたマンガや絵とき図鑑も、バラ色のような21世紀を軒並み描いていました。
今ごろはみんな全身タイツみたいな服を着て、チューブのようなパイプラインで、まるで冬季オリンピック競技のスケルトンのように移動しているはずでした。
それがいつの間にか、どんよりとした無力感や虚無感が社会を覆うようになって、浮かれた気分でいようものなら、文字通り浮いてしまうような雰囲気もあります。僕が大人になったからなのか、時代の流れなのかは分かりません。
そんな空気の今だから、尚のこと「おめでたいオトナ」であり続けたい!という思いで作ったこの曲は、いわば「浮かれたオトナ讃歌」「おめでたいオトナ讃歌」です。
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実はこのオケは元々とある楽曲のトラックだったのですが、このオケを元にさらに新しいメロディを作って、あらためて歌をレコーディングしたのです。
これまでの解説をお読みくださっている方はピンと来たかもしれませんが、サビのメロディの一部に大きな共通点が残っていますので、ぜひ探してみてください。
今度ライヴで両曲をマッシュアップ演奏してみようかな。
収録曲解説⑪【Aguas de Agosto】
僕がまだソロデビューする前の1999年、コンタクトレンズ「2weekアキュビュー」CM曲として作った楽曲。
「中塚武」名義の楽曲ではないのですが、特に思い入れの強い楽曲なので、今回のベスト盤にはボーナストラック的な意味を込めて収録しました。
CMオンエア直後に数千件の問い合わせがあり、会社の電話が鳴り止まなかったらしいです。ネットが普及していない時代ならではのエピソード。そういえばこの曲すでに15年前なのか!ひえぇ…。
それを受けて「Delicatessen mixture」という覆面名義でシングルを緊急リリースする運びとなりました。
このアーティスト名はレコード会社のA&Rが決めたのですが、当時も今も
「うーん…ダサいかも」と思い続けているのはここだけの話です。
当時はビッグビートが世界を席巻していましたが、「ビッグビートの手法でジャズボッサを作ってみる」という実験を試みたのがこの楽曲です。
なので、歌・ピアノ・フルートソロ以外はすべてサンプリングで構築してみました。
歌はヴァース(Aメロ)部分しか録音しておらず、Aメロで録音した幾つかのフェイクをすべて音節で切って、コーラス(Bメロ)部分のコードに合わせて再構築しました。なのでコーラスのメロディは、実はもともと歌っていなかったメロディなのです。
ボーカルはdNessa。彼女とはこの曲を機に『JOY』『Laughin’』などで何曲も一緒に作っていくことになりました。もうアメリカに帰国してしまいましたが、今でも僕の大切な音楽的盟友です。
カップリングには僕の尊敬する先輩、須永辰緒さん、松田岳二さんにリミックスをお願いしました。僕の音楽人生に大きな影響をもたらした辰緒さんとの出会いはこの楽曲がきっかけでした。
収録曲解説⑩【SEXY VOICE AND ROBO】
2007年春の日テレドラマ「セクシーボイスアンドロボ」のメインテーマ曲として作った楽曲で、僕にとって初めてのドラマ音楽でした。
そもそもサントラ愛好家のうえに、幼少時代は「探偵物語」「熱中時代」などの日テレドラマで育った僕の血がふつふつと湧き上がり、超ハイテンションのまま全21曲を書き上げました。
今回収録のメインテーマ曲レコーディングも、僕自身の考えうる最強の布陣で臨みました。
トランペット:佐々木史郎さん、佐久間勲さん、黄”koo”啓傑さん。
トロンボーン:河合わかばさん、佐野聡さん、内田光昭さん。
サックス:吉田治さん、勝田一樹さん。
ストリングス:NAOTOストリングス。
パーカッション:MATAROさん。
ウッドベース:竹下欣伸さん。
書いているだけで身震いするような超豪華メンバーに支えられて、僕にとっても生涯忘れることのない大切な作品が完成しました。
今回の収録はメインテーマ曲ですが、ぜひサントラ盤も聴いていただきたい!
ドラマそのものの視聴率は残念ながら奮わなかったのですが、木皿泉脚本の素晴らしさ、佐藤東弥監督のマニアックな演出、本作がドラマ初主演の松山ケンイチさん・大後寿々花さんの熱演が心に焼きつく素晴らしい作品でした。
それだけにこのドラマの熱狂的ファンは多く、サントラ全曲の使用箇所や深読み解説なども、ネットで展開されていたりして驚きました。
しかも、僕が仕掛けた音楽的トラップなどがすべて解読されていたりして、その深い観察力に嬉しくなったものでした。作り手というのは、正解誤解問わず、作品を深読みしてくれることを非常に喜ぶ人種なのです。
アートワークをお願いしたのは古くからの友人カイシトモヤくん。原作マンガを大胆にフィーチャーしたジャケットデザインは最高にテンションが上がりました。オトナの事情がらみで使用許諾が下りるまでは二人ともハラハラだったのは内緒です。
収録曲解説⑨【On and On】
ファッションブランド『5351 POUR LES HOMMES』チーフデザイナー岡本剛二氏、アートクリエイターのアラキツヨシ氏、僕の3人でのコラボレーションで2010年に生まれた楽曲。彼ら2人との作業は本当に刺激的な体験でした。
この曲のメロディには、実は当初まったく別のテンポとキーでアレンジが完成しており、すでに歌録音も済ませていました。
しかし、3人コラボでの世界観が見えてくるにつれて新しいアイデアが次々に沸き、こうなったら以前のトラックをごっそり差し替えてしまおうと決断。作曲途中にもかかわらず一度リミックスすることにしました。
元のメロディのコード進行をまったく考慮に入れずに作った新しいトラックに、録音済みの歌トラックを半ば強制的に乗せてみたところ、なんともいえぬ不思議な浮遊感が得られました。
新しいトラックとメロディはBPMが全然合っていなかったのですが、タイムストレッチをあえて使わず、各音の頭だけを拍に合わせて、声の余韻をそのままブチブチッとカットしたところ、この曲の独特なボーカルの質感を生み出すことに成功しました。
これまでの「安定した曲作り」の方法をことごとく無視したこの曲の作り方は、まさにコラボでのコンセプト「既存の常識を疑い、陳腐な常識を壊す」を象徴したものとなりました。本当に完成できるかちょっぴりビビってましたけどw
Music Videoはもちろんアラキくんが制作。独特な質感の背景にコラボメンバー全員が出演するCGアニメは今回のDVDにも同梱されています。
アラキくんとはこれ以降も僕のイベントで、メインVJとして毎回最高のパフォーマンスを披露してくれています。
収録曲解説⑧【The Sweetest Time】
ニッポン放送インターネットラジオ「Suono Dolce」にて、2007年10月から5年間「TOKYO AFTER 6」という番組のナビゲーターを担当していました。
毎週生放送で3時間、映像つきでの番組ナビゲーター経験は本当に貴重なものでした。音楽制作と同じ本気度で毎週臨んでいたので、生放送から帰宅すると毎回グッタリしてベッドに倒れ込んでいました。あ、もちろん晩酌の後にですが。
5年間ということは、僕のソロ活動の半分がSuono Dolceで占められているのですが、ここで得た経験や仲間は、今でも僕にとって大きな宝物になっています。
その番組企画として、「丸の内ロール」というロールケーキに特典CDを付けて丸の内で限定販売しよう!というプロジェクトがあって、この「The Sweetest Time」はこの企画のために書き下ろした楽曲でした。
歌をお願いしたのは盟友、内藤響子さん。
【作詞/作曲1日 + 編曲1日 + 歌録音/ TD1日=合計3日間で2曲完パケ】
という超強行スケジュールの中、打合せはおろかキー合わせもしていない楽曲を、響子ちゃんはぶっつけ本番で見事にレコーディングしてくれました。響子ちゃんやっぱりスゴイなあ。
響子ちゃんボーカルの楽曲は他にも「Melody Fair」「素顔のままで」(ともに2nd Album『Laughin’収録』)があります。
レアなところでは、NEWS ZEROの「ゼーロ〜ォ」コーラスが彼女と僕の多重録音だったりもします。
収録曲解説⑦【Girls & Boys】
2006年のアルバム『GIRLS & BOYS』1曲目収録のタイトルチューンです。
速いBPMのビートにゴリゴリのウッドベースとホーンセクションを乗せたややタイトめなリズムセクション。その上にシンセをいくつも散りばめてパンニングで遊び、常に何かしらの音が飛び交っているようなトラックを作りました。
こういうトラックって、ローファイなフレーズサンプリングをひとつ加えただけで即座にサマになってしまうのですが、その手法を採らずに、あえてシンセと生音のみを組み合わせることで、独特の面白い質感を出せました。
8年前の当時は百花繚乱のフィーチャリングボーカル全盛期。僕も周囲からは、いわゆるトラックメイカー/プロデューサーとしての役割を求められていました。
当の僕自身といえば、そもそも他人のプロデューサーになるつもりはまったく無く、前2作『JOY』『Laughin’』でトラックメイカーとしてやりたいことはほぼやり尽くし、次のレベルに進みたくて仕方ありませんでした。
また、話題性やキャスティング重視のようなフィーチャリング方式にも辟易していました。
このアルバムは僕なりの「フィーチャリング訣別宣言」であり、自分名義の曲くらい自分で歌おうと、ごく当たり前のことを本格的に決意したのもこのアルバムからでした。
時代的にも多くの高いハードルがありましたが、当時の流行の波に安易に乗らなかったことで、自分の作りたい音楽をハッキリと見極められるようになりました。
孤独を経て完成にこぎつけた作品にはある種の強靱さが生まれることも、この作品の制作を通じて感じ取ることができました。
そう言えばこの曲は「ライヴで盛り上がりたいなあ」と思いながら作ったにも関わらず、これまでライヴでほとんど演奏していないことに今さら気づきました。近いうちライヴでも演ろうかな。
収録曲解説⑥【Magic Colors】
資生堂ピエヌ(現マキアージュ)2005春のCM曲として制作した楽曲。
前年(「Cherie!」使用)から担当していたこともあって、CMではかなり珍しいことなのですが、先方からは「中塚くんの好きに作ってもらって良い」と言われて作り始めました。
僕は「好きに作って良い」と言われると本当に好き勝手に作ってしまうので、作った後に「やり過ぎです…」と困惑顔で戻されることが多いのですが、そこはさすが資生堂、大きな度量で受け止めてもらえました。
自分の声を10声重ねて子音のアタックを揃え、余韻をばっさりカットしていくことで特殊な効果を得るこの手法は、その後「Kiss & Ride」「Black Screen」でさらに発展させましたが、もともとはこの曲で最初に試みました。
9年前に手作業でこれを作った時は我ながら「大発見!」と一人ほくそ笑んだものでしたが、今ではDTMの進歩もあって、ボーカルプロセッサーやグリッチなどのプラグインで簡単に再現できてしまい、内心「ナヌ〜!?」という心境でいっぱいなのはここだけの話です。
オケトラックは、アコースティックギターを2本録音して、それもやはり余韻を16分音符でカット。それぞれにリバースや軽いモジュレーションをかけてクリックハウス的なアプローチに。
「Db△9」ワンコードのような進行ですが、3拍目のベースを第一転回にすることで「Fm7(b13)」とのツーコード進行に聞こえさせています。
先日教えてもらったのですが、現在はTBS「内村のざわつく夜」のオープニングテーマとして使用されています。
9年前に好き勝手に作った曲が、9年後の今になってゴールデンタイムのTV番組から流れるのも感慨深いなあ〜…と思いつつも、ひと声かけてくれれば新曲すぐ書くのになあ〜(好き勝手に)…とも思ったりしています。
収録曲解説⑤【冷たい情熱】
アルバムでの発表は昨年の『Lyrics』ですが、曲そのものは2011年秋にホームページ無料配信TAKESHI LABで発表していました。僕の曲作りの大きな転機になった楽曲です。
リズムパターンやジャンルはもちろん、キーや拍にも囚われずに頭の中のイメージをそのまま音にするという試みを、初めて実践できたと思えた楽曲でした。
イメージに正直に作ってみたら思いっきり変拍子になってしまいました。僕の性格はどこまで歪んでいるのでしょうか。
歌詞でも大きな試みをしています。普段の生活では目を背けがちな「自分ってこれからどうなるんだろう?」という漠然とした不安を、漢文訓読的な筆致の日本語で書いてみました。
こういう曲調にこの日本語詞を乗せることで、これからの日本語曲のありようを自分なりにつかみ取ることができました。
ホーンセクションは、トランペット佐々木史郎さん、サックス本田雅人さん、トロンボーン清岡太郎さん。
史郎さんは僕のレコーディング作品では欠かすことのできない大切な方で、ホーンアレンジをする前に、まず史郎さんのスケジュールを押さえられるかでアレンジの方針が左右されるほどの最重要人物のひとりです。
この「冷たい情熱」も、史郎さんと出会わなければ生まれなかった多くの楽曲のひとつです。
今回DVDとして同梱されるMusic Videoを制作したのは杉江宏憲さん。
杉江さんがNEWS ZEROのビジュアルデザインを手がけていたことをTwitterで知り、そのままTwitter経由で意気投合して良き飲み仲間になってしまいました。SNSってすごいなあ。
完成した動画は、さすが天才としか言いようのない仕上がり。
MV公開直後にオーストリアの芸術祭アルス・エレクトロニカから突然連絡があり、なんと招待作品としてエントリーされてしまいました。杉江さん恐るべし。
ぜひ今回のDVDで堪能していただければと思います。
収録曲解説④【Café Bleu(with Clementine)】
2004年のソロデビューアルバム『JOY』の1曲目は、それまで何度か一緒に制作活動をしていたクレモンティーヌとともに作ったこの曲でした。
それまでにも彼女のアルバムでフランシスレイの「男と女(Un homme et une femme)」カヴァー、鈴木雅之さんトリビュートアルバム「ガラス越しに消えた夏」での彼女とcobaさんとの3者コラボなどを制作していましたが、僕の名義ではこの曲が初めてのコラボ録音となりました。
その後も彼女のアルバムに僕が参加したり、彼女の娘さんの制作を手伝ったりと、何かと一緒に制作していたのですが、すべて東京⇔パリ間でのデータのやりとりだけだったので、実は直接お会いしたのはこの曲から3年後でした。
お互い会ったこともないまま何曲も遠距離作曲してたなんて、文通みたいでちょっとイイ感じ。
ホーンセクションは、フリューゲルホーン数原晋さん、サックス平原まことさん、トロンボーンFred Simmonsという超大御所のお歴々。よく物怖じしなかったものだと、当時の生意気な自分の頭を小突いてやりたいです。
数原さんが僕のアレンジを気に入ってレコーディング中の空気を柔らかくしてくださったことが、この曲全体の雰囲気を作ったと言っても過言ではありません。ソロデビュー1曲目を彼らの演奏で飾れた僕は幸せ者です。
『JOY』のジャケットは2種類あって、左が代々木公園で撮影した初回盤、右が横浜赤レンガ倉庫で撮影した増刷盤です。ハマっ子の僕としては赤レンガ盤の方が思い入れがあるかな。
ちなみに増刷盤で弾いているオルガンは、スタンド付き(!)のKORG初代BX-3です。
収録曲解説③【Countdown to the End of Time】
この楽曲を収録した2010年のアルバム『Rock’n’Roll Circus』は、初めて僕がゲストをまったく招聘せずに作った作品で、自分自身の思い入れも相当に強いものがあります。
ファッションブランド『5351 POUR LES HOMMES』チーフデザイナー岡本剛二氏・アートクリエイターのアラキツヨシ氏・僕の3人で「完全にメディアミックスしたコラボをしてみよう」と意気投合して制作したこのアルバムは、従来とまったく異なる方法で制作しました。
いわゆる「1曲単位でのラフスケッチ」をまったく作らずに、思いついた楽想のかけらをとにかく片っ端から録音して、それらをアドリブ的に組み合わせて1コーラス分のシーケンスを作成。この段階まで作って初めてメロディを乗せる、という手法を採りました。
化学反応やセレンディピティを求めたこの制作方法は、自分が思いもよらない音楽に仕上がって本当に刺激的でした。
この方法によって、まるでアルバム全体が1曲であるかのような、不思議な統一感のある作品を生み出すことができました。スタジオ代が半端なかったですが…汗。
アルバム1曲目を飾ったこの楽曲も、最終着地地点がどこになるか分からないまま、とにかくBPMとキーだけを決めて7管編成のホーンフレーズを録音してしまい、レコーディング後に大きくカット&エディットを施しています。
なので、最終的なフレーズはレコーディング時に演奏したものから大きく変化しました。
副田整歩さんのサックスソロには”SupaTrigga”というプラグインをかけて再編集し、強烈な効果を生み出しています。
曲の完成後、副田くんに「せっかく吹いていただいたソロ、こんなにしちゃいました…」と恐る恐る白状すると「めちゃくちゃカッコイイ!」と喜んでもらえたので、ホッと胸をなで下ろしたものでした。
収録曲解説②【Your Voice(sings with 土岐麻子)】
QYPTHONEデビュー当時から仲良しだった土岐麻子嬢とコラボした2006年の楽曲。
子どもの頃に大好きだった「We Are The World」メイキングビデオを観て一番驚いたのは、まず最初に歌やコーラスを録音して、その後にミュージシャンがバッキングを演奏していたことでした。
子どもごころに「えっ、順序が逆じゃん!?」と戸惑ったと同時に、レコーディングの最終段階で、冒頭イントロにシンセが「キラキラ…→ドーン!」と入った時の鮮烈さもいまだに憶えています。
音楽家になってからはその制作順序も普通の手段のひとつになりましたが、この「Your Voice」では、その手法を積極的に使ってみようと制作に臨みました。
もちろん僕の頭の中の完成イメージは出来ているのですが、土岐ちゃんに歌ってもらう際のヘッドアレンジは、ピアノとシンセベースと薄っぺらいリズムだけで、当時の土岐ちゃんのマネージャーさんに「えっと…こういうアレンジの曲なのですか…?」と真顔で訊かれ、焦って説明した憶えがあります。
すべての音楽家がそうだと思いますが、僕も曲を作るときには「10年経っても古いと思われない、みずみずしいままの楽曲」を目指しています。
7年の時を経た昨年になって、この曲がアニメ「きんいろモザイク」のエンディングテーマとしてカヴァーされると聞いた時に、曲がりなりにもなんとか風化を乗り越えることができたのかなと、ひとり溜飲をさげました。
収録曲解説①【Kiss & Ride】
本日より、4/23リリースの僕のベストアルバム『Swinger Song Writer』収録曲の各曲解説をしてみたいと思います。
1日1曲。全18曲で18日間、どうぞよろしくお付き合いください。
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収録曲解説①【Kiss & Ride】
(from 4th Album『KISS & RIDE』)
2008年の4thアルバム『KISS & RIDE』のタイトルチューン。
モンドリアン風のワンピースをまとった柴咲コウさん、大泉洋さんが出演したグリコのガム「POs-Ca(ポスカ)」CM音楽に使用されました。
その数年後にKONAMIのアーケードゲーム「jubeat」シリーズにも使用され、図らずも僕のアーケードゲーム音楽デビューは、古巣ナムコではなくコナミによって果たされることとなりました。うーん、複雑な気分。
メインのコーラスパートは7パート合計21声を1人ダビング。まずは声だけでアカペラミックスを完成させてグリッチエフェクトをかけ、さらにそこから波形をカットアップしてフレーズを再構築する、という気の遠くなる作業で作成しました。
オリジナルアルバムバージョン発表当時は、僕がDJをやっていたこともあって、プレイ中にエフェクトなどを加えるためにあえて曲尺を長くしていましたが、僕の活動がDJからライヴに移行するうちに、次第にライヴに特化したアレンジに進化していきました。
今回のベスト盤を機に、曲尺も再構築しつつライヴでのピアノフレーズも新たに録音し直し、オリジナルからさらに進化させた「Kiss & Ride」として収録しました。この盤だけの最新バージョンをぜひご堪能ください。
【ベストアルバム収録曲決定!】
4/23発売のベストアルバム『Swinger Song Writer』収録曲が決定しました!
CD収録時間限界ギリギリの全18曲。
ソロ名義前の楽曲から新曲まで、あまねく網羅しました。
泣く泣く収録を見送った楽曲も多数ありましたが、僕の10年の軌跡をたどることのできる選曲になりました。
新曲も自信作なのでお楽しみに!
【Swinger Song Writer – 10th Anniversary Best -】
(DISC 1 : CD)
01. Kiss and Ride
from『KISS & RIDE』
02. Your Voice (sings with 土岐麻子)
from『GIRLS & BOYS』
03. Countdown to the End of Time
from『Rock’n'Roll Circus』
04. Café Bleu (Pour Un Oui Ou Pour Un Non) with Clementine
from『JOY』
05. 冷たい情熱
from『Lyrics』
06. Magic Colors
from『Laughin’』
07. Girls & Boys
from『GIRLS & BOYS』
08. The Sweetest Time
from『KISS & RIDE』
09. On and On
from『Rock’n'Roll Circus』
10. SEXY VOICE AND ROBO
from『セクシーボイスアンドロボ』
11. Aguas de Agosto
from『Aguas de Agosto E.P.』
12. 虹を見たかい
from『Lyrics』
13. キミの笑顔
from『歌うピアノ男子』
14. Chérie!
from『JOY』
15. Black Screen
from『Black Screen E.P.』
16. Love Wing
from『Laughin’』
17. 北の国から
from『GIRLS & BOYS』
18. 〇の∞(ゼロの無限)
※新曲
(DISC 2 : DVD)
01. On and On(Music Video)
02. Black Screen(Music Video)
03. 冷たい情熱(Music Video)
【CUT & MASH Radio Show正解発表】
昨年11月PLAY BUTTONとしてリリースした20分20曲のカットアップ&マッシュアップ音源『CUT & MASH Radio Show』は、おかげさまで大好評をいただきました。
特設ページにて収録20曲を解答できるクイズ形式にしてみましたが、こちらも本当にたくさんのご解答ありがとうございました!
12/31をもって解答を締め切らせていただきました♫
全問正解された方には、今回とはまったく別の選曲で新しく制作した、
10分10曲の裏マッシュアップ音源
『CUT & MASH Best 10』
をお送りしますので、こちらもお楽しみに。
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今回の制作に当たっては、
・オリジナルアルバムからは満遍なく選曲する。
・イジワル問題は作らない。
・純粋に音楽として楽しめる。
の3つを念頭におきました。
今までに聴いたことのないアイデアに溢れる仕上がりになったと思います♫
オリジナル音源から弦楽四重奏だけを抜き出した冒頭の「Aura」と、9曲が入り乱れる怒濤のラスト5分などが難しかったようですね。
でも、皆さん目を見張るほど高い正答率で、特に全問正解者のTAKESHI freakぶりには舌を巻くと同時に、本当に嬉しく思いました。
—
全問正解された方も、惜しくも全問正解を逃した方も、あらためて20分間の音楽エンターテインメントとしての『CUT & MASH Radio Show』を、これからも楽しんでいただければ嬉しいです。
2013年もたくさんの音楽を届けたいと思っていますので、よろしくお願いします。
それでは、正解20曲の全タイトルの発表です♫
—
『CUT & MASH Radio Show』
01.「Aura」 (from album『バラ色の聖戦 -THE FUTURE IS IN OUR HANDS!-』)
02.「SEXY VOICE AND ROBO」 (from album『Sexy Voice And Robo』)
03.「詐欺師のブルース」 (from album『53512010』)
04.「Chérie!」 (from album『JOY』)
05.「Girls & Boys」 (from album『GIRLS & BOYS』)
06.「What A Wonderful Girl」 (from album『Kiss & Ride』)
07.「涙に濡れた夢のかけら」 (from 『歌うピアノ男子』)
08.「Giulietta」 (from album『GIRLS & BOYS』)
09.「St.Parade」 (from album『JOY』)
10.「白い砂のテーマ」 (from 『TAKESHI LAB』)
11.「Circus (Set Me Free)」 (from album『ROCK’N'ROLL CIRCUS』)
12.「Cheese Cellar」 (from album『GIRLS & BOYS』)
13.「Stay」 (from album『Laughin’』)
14.「Hooray, La La」 (from album『Laughin’』)
15.「On and On」 (from album『ROCK’N'ROLL CIRCUS』)
※combo version
16.「Shinin’ Beauty」 (from album『Kiss & Ride』)
17.「Black Screen」 (from single『Black Screen e.p.』)
18.「Magic Colors」 (from album『Laughin’』)
19.「So Good」 (from album『GIRLS & BOYS』)
20.「Stompin’ Jack Flash」 (from album『ROCK’N'ROLL CIRCUS』)
※曲は出現順です。
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【本当に音楽でないと伝わらないのか】
(つづき)
さて、もうひとつの「音楽を通して何かを伝えたい」場合。
たとえば歌などは歌詞もあるのでこちらになりますよね。
でも、いくらメッセージがあるからと言っても、何でもかんでも音楽に乗せれば良いってものでもありません。陳腐なメッセージを乗せた曲は聴き手の時間を奪う時間泥棒でしかありません。
大切なのは、
その伝えたいことを伝えるのに、音楽でなくてはならないのか?
その伝えたいことは、音楽以外の方が伝わりやすいのではないか?
という点を、まずはよく吟味してみることです。
「音楽そのものを伝えたい」場合の純粋な音世界とは違って、こころ、身体、環境、経験、知恵、良心、願望、欲、愛情、、、とにかく自分自身の人間性を総動員して吟味しなければなりません。
●安易にエコや戦争反対を歌うよりも、NGOボランティアに入って活動した方がよほど世の中に広く深く伝えることができるかも知れません。
●政治や社会問題を歌うよりも、政治家になって選挙に立候補した方がよほど分かりやすい活動かも知れません。
●自分の思いをまわりくどく歌に乗せるよりも、毎日のブログで同じことを書いた方がストレートに伝わるかも知れません。
●大きな愛を仰々しく歌う時間を使って、身近にいる大切な人に「ありがとう」と言ってあげる方が愛を広めるかも知れません。
本当に音楽でないと伝わらないのか?
を、厳しく自己批判することが大切なのですね。
その吟味を経てはじめて、音楽に乗せて何を伝えれば良いのかが自分の中でハッキリしてきます。
そうやって「音楽に乗せて伝えることが最もよく伝わるはずだ」という確信が持てた時に、初めて筆を動かせば良いのです。
というよりも、もうそこまで吟味ができた段階ならば必然的に、楽曲は8割がた完成しているようなものです。あとは筆が勝手に動いてゆくのですね。
音楽とメッセージが溶かし込まれるように一体になれば、それはもう立派に、
「音楽でなければ伝えられないこと」
ですよね。
この吟味プロセスを忘れなければ、音楽を作る時に「出来ない・・・(T_T)」などと悩むということはほぼ100%無くなります。
作るか作らないかをよく考えて、作ると決まったらほぼ自動筆記状態。
もし制作中に筆が止まったり、スランプ状態に陥ることがあったとすればそれは、
「音楽以外のメッセージを、わざわざ無理に音楽に乗せようとしている」
のかも知れません。
音楽でないと伝わらないことを伝える
これこそが、音楽「で」何かを伝えたい場合の生命線なのですね。
【音楽で伝えたいのか。音楽を伝えたいのか。】
前回は、初期衝動によって作品の中に子供の落書きのような本質を残すことが大切と書きました。
では、本当の子供の落書きとどこが決定的に違うのでしょうか。
それは、音楽を作ったり奏でたりする時に、その楽曲によって、
「音楽を通して何かを伝えたいのか?」
それとも、
「音楽そのものを伝えたいのか?」
をまずハッキリさせる、ということですね。
音楽「で」伝えたいのか?
音楽「を」伝えたいのか?
ここをハッキリさせないと、焦点の定まらないものになってしまいます。
焦点が定まらなくては、どんなに上手なデコレーションが施してあったとしても、実質は子供の落書きと同じレベルになってしまいます。
—
「音楽そのものを伝えたい」場合は、まさに文字通り「音を楽しみ、音を楽しませる」という点が大切ですね。
政治信条、宗教的要素、社会問題、人間関係とはまったく無縁の、ただただ純粋な音世界。
ストーリー性などの標題は副次的に感じても良いけれど、あくまでも絶対音楽の世界。
音楽が数学や建築に似ているのは、この絶対音楽の世界があるからかも知れませんね。
この純粋な音世界を作るのに、作者が人間的にどういう人なのか、
良い人なのか、
ろくでなしなのか、
礼儀正しい人なのか、
食生活が乱れているのか、
性生活が乱れているのか、
病気なのか、
こういうのは一切関係ありませんね。
もうただただ純粋な音楽の世界が良ければ、作者がどうあろうとも無関係ということです。
作者が人間である必要すらないかも知れません。
コンピューターでも偶然でも不特定多数でも良いのかも知れません。
人柄は良いけれど腕がイマイチな建築家にマイホームを頼まないのと同じで、音世界が良ければ人間性は度外視しても良いと思っています。
そのかわり、耳の鋭敏さ、研ぎ澄まされた感覚、世界の構築能力、イメージ力、色彩感覚、自分自身の能力を総動員して、徹底的に音世界だけで伝え尽くさないといけません。
陳腐な音世界しか提示できないのであれば、作らない方がマシです。
「音楽そのものを伝えたい場合」は人間性よりも能力を総動員することが大切なのですね。
その一方で、「音楽を通して何かを伝えたい場合」には、人間性を総動員した自己批判と吟味が必要なのです。
(つづく)
【初期衝動】
音楽を作る時に一番大切なのは、
「初期衝動を最後まで大切にする」
ということです。
初期衝動が失われた瞬間にその作品は伝えたいことが無くなる、つまり、作り続ける意味が無くなるのだ、ということを肝に銘じておかなければなりません。
それはどういうことかと言えば、
「たとえ完成間近の楽曲だとしても、作ることを中断する勇気を持つ」
ということでもあります。
これがなかなか難しいのですね。
自分名義の楽曲であればまだしも、お仕事として発注された楽曲などでは至難の業。
発注元の意向、〆切、予算などという無粋なハードルが幾重にも連なっているために、途中のものを中断してゼロから作り直そうなど言語道断であるとお叱りを受けてしまう恐れがあるのですね。
けれど、自分が骨の髄まで納得ずくのものを作りたい、作らねばならないという使命感は一番大切にしたい。
ではどうするか?
実は簡単なことだったりします。
もともとそういう葛藤を生むような状況を作り出さないようにすれば良いのですね。
具体的には、出来るかぎり早い時点で、初期衝動に任せて大まかなラフを作ってしまうということです。それこそ半日から1日で。
その段階では、細かい部分や全体のカラーや統一感などは完全に無視する。
どんなにちゃちなものでも、
「これは全然ラフなんだからね、自分よ。」
「完成図はこんなもんじゃないけど、今はこれで良いのだよ、自分よ。」
と自分に言い聞かせて、細かく手を入れたい欲を抑えながらまず全体像を作ってしまう。
後で大幅に直すかも知れないとか、これは本当に良い仕上がりになるのだろうかとか、そういうことは一切考えず、ただただ子供の落書きのようにざーーーーっと、とりあえず最後まで作り切ってしまう。
そうして短い時間で作ったラフには、必ず初期衝動の痕跡が残ります。
その痕跡こそが、その楽曲の肝なのですね。
作りきらずに一日でも置いてしまうと、この初期衝動自体が一晩寝かされて発酵されてしまい、妙な「うま味」みたいなものが出てしまいます。
それがまた熟成された美味しいアイデアに感じるものだから、昨日作りかけて途中だったラフにペタペタ継ぎ接ぎしてしまいがち。
でも、そんなことをしてしまえば、たちどころにその楽曲の肝が損なわれてしまいます。
何が言いたいのか焦点がぼやけてしまい、結局のところ「昨日のチャーハンと今日のチャーハンを混ぜたような、ピンぼけの楽曲」になってしまうのです。
万一そうなった場合にも、早い段階で進めてさえいれば、ゼロから作り直す時間的余裕があるわけですから、ゼロから作り直す勇気を持ちやすい。
ごちゃまぜチャーハンになった楽曲は即座にボツにして、1日目に作ったチャーハンのラフは、それ単体で別の機会にあらためて作り直せば良い。
初期衝動のままその日じゅうにラフを作りきってしまえば、〆切を守るのではなく、〆切に攻めていく感覚をつかむことができます。
〆切に攻めていく感覚を掴めれば、その楽曲はもう自分のものになっていると言えるでしょう。
〆切や予算や大人の事情が自分の初期衝動に勝ってしまう、そんなセミの抜け殻のような楽曲を世に出すことは「騒音公害」だという自覚を持つことが大切なのですね。
Lily Allen / Alright, Still
今年の夏も相当暑かったですね。ここ2〜3年は猛暑が続いていて、日本もそろそろ亜熱帯気候づいてきたなあと、しみじみ地球温暖化を体感していました。
僕は夏の暑さが大好きなので、朝起きて太陽がカンカン照りだと「何かしなきゃ何かしなきゃ」と落ち着かなくなります。この太陽光線を無駄にしないように外出しなきゃ、とか、公園で体操とかした方がいいのかな、とか、プールとか行っちゃって夏を満喫しちゃおうかな、とか。とにかく色々なことをクーラーの効いた部屋の中で結局は夕方まで考えちゃったりして。地球温暖化に一役買っちゃってるなあ。
そんな涼しい部屋の中から太陽の光を見つつ、「なんちゃって」な夏を感じつつ、結局インドアな夏を過ごしつつ、よく聴いていたのはこのLily Allen。何だかトゲがあるようで無い「なんちゃって」感がちょうど僕の夏の過ごし方とリンクしたりして。歌からオケまで全部自分で作っちゃうあたりのインドア加減も共感できるし。
今年の夏はレコーディング三昧だったので、来年こそは夏前にレコーディングを終わらせて、バーチャルではない夏を満喫したい!・・・ってもう来年の夏の話をしちゃってるわ。
Daniel Powter / Daniel Powter
最近は他のアーティストの音楽を聴くよりも、サンプリングCDのドラムの音ばかりを聴いている僕ですが、さすがに2〜3時間ぶっ通して「ドン、ドゥン、パスッ!」なんてドラムの音ばかり聴いていると、耳よりも先に頭が参ってくるんですね。真っ白になって何も考えられなくなってくる感じでしょうか。意外にも座禅のような効果すらあるんです。ヘッドホンでドラムの音を聴きながら目をつむり、なぜか自分自身を見つめ直したりして。はたから見たらちょっとコワい画です。
で、そんな感じで思いを巡らせると、マジで昔の自分に意識が帰って行くんです。自分が幼い頃に好きだった音楽、中高生の頃に好きだった音楽、大学時代によく聴いていた音楽の記憶が次々と、それこそ溢れるように出てくるんですね。僕のようなお粗末な脳の中にもこれだけ深層記憶があるんだなあ、とビックリするくらい思い出しちゃって。好きだったアニメの主題歌とかも完璧に歌えたりしてね。あんまり高級そうな音楽とかは聴いてこなかったことも痛感したりして。
このDaniel Powterも(ジャケ大・大好き。曲とアレンジも最高)今年初めによく聴いていたのですが、これも数年後には「あの頃あんな曲聴いていたなあ」なんて思い出すんでしょうね。僕の曲も聴いた人にとってそういうさりげない存在になればいいなあ、なんて思いながら、今朝もこれからサンプリングCDを聴きつつ曲を作ります。
Raul Midon / State Of Mind
John Legendとともに間違いなく今年一番聴いたアルバム。全曲最高。もう何度聴いたことか。。。
歌とギターの超絶技巧っぷりも確かに凄いけれど、それだけでは単なるサーカス芸なのでそこに僕はあまり興味が無い。技術大国ニッポンでは、人を感心させたいのか感動させたいのかよく分からない技巧派ミュージシャンをよく見かけるからね。
でも彼は違う。まず作品としての曲が素晴らしい。メロディもコードの紡ぎ方も丁寧で誠実。そして何より歌が良い。上手いとかそういう問題ではなくて、自分の歌でしか表現できない事を伝えようとしている。それが曲からひしひしと伝わってくる。ジャンルにも流行にも話題にも頼る必要がない、唯一自分の音楽だけを信用している、っていう思いが刺さってくる。ものすごく共感します。歌詞はYAZAWAみたいだけどね(笑)。
僕が思うに、彼の卓越した技術は、単に彼自身が自分の作った音楽を伝えたかったから身につけたんだと思う。「練習のための練習」「上手くなるためだけの練習」に終始している多くの人にはぜひ見習って欲しい姿勢だよなあ。
レコーディングが詰まっていて秋のライブには行けなかったけれど、ライブを観た人から多く聞いたのが「人間業とは思えないくらい上手い」みたいな感想ばかりだったのが残念。そんなものが観たいならボリショイサーカスにでも行けば良いのに。1月の再来日はぜひこの目この耳で観ようっと。
Steph Pockets / Flowers
偉大だったり有名だったりする親の子供って僕には分からないような苦労があるんだろうなあ、なんて、この前深夜番組見ててふと思いました。
日本で一番エライ人の息子ってだけで深夜のトーク番組を任されたりして、これはこれで自分自身の能力以上のものを期待されてしまったりする訳で、ゲストの人からも「お父様によろしく」なんて言われて「あれ?自分はスルー?」みたいなシチュエーションもたくさんあるだろうし。自分の力だけで成し遂げたはずの事も「やっぱり血は争えないねえ」なんて見られたりして、結局のところ等身大に判断されることがなかなか難しいだろうなあ。
このSteph Pocketsも、小さい頃からそんな周囲の声やプレッシャーを受けまくって音楽を作っているに違いない。なのにそんなプレッシャーを全く感じさせない強靱なsoul musicを作っていて大好き。音楽の良さにそんな下らない話題性は不要なんだよね。しかも2ndはきっちり横顔ジャケ。
2世ミュージシャンのすごい部分は「血筋」や「恵まれた環境」なんかではなくて「普通の人では考えられないプレッシャーへの耐性」なんじゃないかな。「横浜の下町の惣菜屋の次男坊」という、音楽をやるにあたって全くノンプレッシャーでいられる僕はなんて幸せ者なのでしょう。
John Legend / Get Lifted
「黒人横顔ジャケの法則」シリーズ第2弾は、やっぱり蟹江ウエスト氏プロデュースのCD。これも今年の初めによく聴いたなあ。
海外のストリーミングでKanyeとのジョイントライブを観て衝撃を受けて、後でLauryn Hillのバックでピアノ弾いてた事を知って2度ビックリ(そう言えば彼女のunplugged盤も横顔ジャケだな)。
いざCDを聴いてみたら、僕の大好きな最近の黒人音楽のback to melody傾向が非常に強くて3度ビックリ。
そしてジャケットのものすごい横顔っぷりに4度ビックリ。
ルックスが良い点も買われたのか、今GAPのCMにも出てますね。GAPのCMシリーズはこれまた僕の大フェイバリットなので、ここで5度目のビックリ。まさにビックリ5つ星のアルバム。中でも「Ordinary People」が最高。この曲の12inchのジャケは正面顔だけどイカしてます。
今年のGWに来日していたのですごくライブ行きたかったんだけれど、レコーディングが入ってしまっていて残念ながら行けませんでした。今度来る時にはとんでもなくビッグなアーティストになってるんだろうな。何せ源氏名にLegendなんて付けるくらいだから。僕もそういう派手な芸名でもつけて笑われてみようかな。
Common / Be
鼻タレ時分の小さい頃から、ジャケットが黒人の横顔のCDを見つけると、試聴もせずにそのままジャケ買いしてしまうという悪いクセがありまして。近頃はインターネットで買い物が出来る便利な時代になったので、さらにジャケ買いが止まらなくて仕方ありません。しかも大抵ハズレが無いので、僕の中ではすでに「黒人の横顔ジャケCDは中身が良い」という強固な理論が確立されてます。僕もLaughin’ジャケで顔を黒く塗って横向こうかなと思いましたが、ラッツ&スターの新作と思われるのが関の山なのでやめました。
Kanye Westはまさにその法則を知ってやがりまして、自分名義のCDは訳の分からない被りモノを被っているくせに、いざ他のアーティストをプロデュースする時は「横顔でも撮っておけ」とスタッフに言っているに違いありません。
という訳で僕が好きな「黒人横顔ジャケの法則」シリーズ、1枚目はCommon『Be』。タイトルが「Be」だけあって、まさに原点回帰。前作では時代の要請もあって細か過ぎる打ち込みやギミックばかりだったけれど、今回はバッチリsoul & Hip Hop。特に1曲目「intro」は本当にヤバい。Laughin’作ってる時に一番よく聴いてたアルバムかも。